Number_iは音楽界を撹拌する「トリックスター」。紅白にデビュー作“GOAT”投下する特異性を解説
世界に届けるための戦略。『コーチェラ・フェスティバル』出演は「アジア代表」の側面も
“GOAT”の発表後もNumber_iの音楽性は広がり続け、アルバム『No.Ⅰ』では曲ごとにジャンルを変える混沌とした豊かさを呈しているのだが(※)、それらの音楽性はいずれも時代の流れに即したものだった。 2020年代に入ってから世界的に流行してきたY2K(※1)リバイバルはポピュラー音楽でも重要なテーマになっていて、ヒップホップとロックの交差領域であるミクスチャーロック(※2)でも、インディポップやR&B、クラブミュージックにおいても、90年代後半から2000年頃の作品やその空気感が参照されている。これは『No.Ⅰ』収録曲の大部分についても言えることで、“GOAT”や“Numbers”といった特殊な展開をする曲も、パーツ単位では上記のようなトレンドを目ざとく意識している。 ※1 Y2Kは「Year2000」の短縮形で、読みは「ワイ・ツー・ケー」。 Y2KのKはkmやkgなどに使われる1,000を表す単位の接頭語で、つまり西暦2000年のこと。ファッションや音楽で当時の様式を取り込むこと。 ※2 英語圏ではニューメタルまたはラップメタルというのが一般的。 12月22日に放映されたNHKスペシャル『熱狂は世界を駆ける~J-POP新時代~』では、そうした空気感やメンバーの姿勢が、直接的にではないもののはっきりしたかたちで示されていた。同番組は、Creepy Nuts、Number_i、新しい学校のリーダーズの3グループの海外活動についての密着取材で、その終盤では、88risingのショーン・ミヤシロがインターネット経由で新しい学校のリーダーズを発見し、自身がアメリカで主催する音楽フェスティバル『Head In The Clouds Festival』に2021年に招聘、世界的ブレイクに導く様子が描かれた。 88risingはアジアのカルチャーシーンを世界に発信するために設立された音楽レーベル~メディアプラットフォームで、2022年には『コーチェラ・フェスティバル』のメインステージにプログラム「Head In The Clouds Forever」として登場。中国のジャクソン・ワン、韓国のCL & 2NE1といったスターたちとともに、日本からは宇多田ヒカルが出演し大好評を得た。そして、2024年には「88rising Futures」として再びコーチェラに登場し、日本からは、新しい学校のリーダーズ、Awich、Number_i、YOASOBIが出演した。 つまり、Number_iのコーチェラ出演にはこうしたアジア代表としての側面がある。NHKスペシャルでは、「ここ数年はアフリカやラテンアメリカ、アジアからのアーティストも増え、よりグローバルになっています。今後も規模は拡大し大きな影響力を持ち続けるでしょう」というマイク・ヴァン(米ビルボードCEO)のコメントも紹介されている。 ここ数年のポピュラー音楽領域では、ロザリアやNewJeansなど、英語圏の外からもスターや重要な作品が輩出され続けていて、その勢いが集客と批評の両面から求められるようになっている。コーチェラへの88rising参加はこのような流れを象徴するもので、Number_iがそこに乗ることができたのも、活動初期から世界を意識した作品づくりを続けてきたことが大きいのだろう。 そして、世界に届けるにあたっての戦略としては、最新の音楽を知り、それらと張り合えるくらい先鋭的な取り組みをしていくことが重要だ。変則的だと見なされがちなNumber_iの音楽性は、以上のような観点からすれば、むしろ正統派な部分も多いのだ。 同番組で放映されたインタビューからは、こうした音楽性に取り組む各人の姿勢がにじみ出ていた。平野紫耀の、「守りに入ったことをやっても……もっと振り切りたいなというのもあったので」「ざっくりはしているんですけど、より多くの人に届けたいということですね。年齢層も性別も国も問わず、より多くの人に一度聴いてもらいたいという目標なのかな」というコメント。 また、岸優太の、「泥臭くといいますか、いろいろなことに挑戦していいんじゃないかなっていう。今回も、もちろん大歓声をいただくのが目的で行っているわけじゃなくて、僕たちを知ってくれる第一歩としてこうやって行っているので」というコメント。 そして、神宮寺勇太の、「自分たちが発信したい音楽を発信して、それをよく思っていない人たちがいたとしても、好きになってきたみたいなふうに思ってもらえたら一番うれしいです。とにかく自分たちの好きな音楽を出していきたい」というコメント。 言い回しはそれぞれ異なるが、挑戦しつつ届けたいという意志は共通している。『No.Ⅰ』収録曲の音楽性がバラバラなのに、アルバム全体としては不思議な統一感があるのは(※)、メンバー間のこうした息の合い方によるところも大きいのではないだろうか。 ちなみに、同番組のバックステージ・シーンでは、神宮寺勇太がナイン・インチ・ネイルズ『The Downward Spiral』(1994年に発表されたインダストリアルメタルの名盤)柄のTシャツを着用している様子が映されていた。これはNumber_iの“INZM”(特にHyper Band ver.)にそのままつながる要素で、メンバー自身が好きだからこそこのような音楽性に取り組んでいることがよく伝わってくる。こうやって趣味と実益を兼ねているようなところも、Number_iの音楽の強さやリアルさ(ヒップホップ的な文脈では特に重視される要素)の源になっているのではないかと思う。 ※12月2日にサプライズリリースされた『No.Ⅰ』のデラックス版では、冒頭に新曲“HIRAKEGOMA”が追加収録されているのだが、この曲はNumber_iのコアな要素とポップな要素のすべてを網羅する構成になっていて、それがアルバムの優れたイントロダクションとしても機能している。これが1曲目に入ることでアルバム全体の完成度が数段増しているので、オリジナル版に慣れた方もぜひデラックス版を聴いてみることをお勧めする。