「頻繁に停電」「だがグラウンドには300万円の機械が」…。貧困国ドミニカで「野球選手」夢見る少年たちの“悲哀”とは?
16歳くらいで150km近くを投げる選手たちがゴロゴロいる中で、メジャーリーガーになれるのは、ほんの一握りなのだ。 そのような過酷な世界だからこそ、契約内容に引退後の大学の資金を出してくれるケースもある。 ただ、どれだけの選手たちがアカデミックな方向に進むことができるのだろうか。彼らは今までの人生でそこまで、学習に対して注力してきたことがないのだ。ドミニカは日本と比べて教育水準が高くないし、実際、私が共に過ごしていた現地の選手たちは土日しか学校に通っていなかった。
そんな環境ゆえに、マイナー契約を結んだことが、人生にとって最も輝かしい時期になってしまう人も少なくない。メジャーリーガーになって大金を稼ぐことが彼らの唯一の勝ち筋なのだ。 ドミニカで知り合った選手たちのフォロワーを辿っていくと、“自分がマイナー契約をした”ということだけが人生を推進させてくれている材料になっている人は少なくない。 実際、私が出会った1人のドミニカ人は、ほぼ毎日のように自身がマイナーリーグでプレーをしていた写真を掲載していた(ただし、仮にマイナー契約を勝ち取れた場合の契約金は数十万円から数億円になる。彼がいくらの契約金を得たのかは不明だが、金額次第では、十二分に夢があるのは事実だ)。
■マイナー契約をつかめる人はごく一部だ もっとも、良い条件で、マイナー契約を結べる人は少数だ。良い条件で契約できなかった場合、野球を続けるのはさらに茨の道になる。 私はアメリカの独立リーグで、中南米出身の元マイナーリーグの選手たちと交流した経験もあるのだが、彼らの中には「ドミニカ共和国のマイナーリーグで、スターだった選手」も少なからず存在した。 日本で野球を見ていると、中南米出身の選手たちに対して、「陽気なラテン男たち」といった印象を持ちがちだ。しかし、彼らは上澄みの人たちであり、その向こうには無数の夢破れた者たちがいるのだ。
ドミニカに滞在している最中、車に乗って窓から外の景色を眺めていると、目の前に小学生くらいの男の子たちが現れることがしばしばあった。 現れるとは、ただただ視界に入るのではなく、彼らは車に向かって走ってきていたのだ。彼らは何かの役に立つ黒い棒を持っていた。そして、それを振りかざしていた。おそらく、買ってほしいということなのだろう。車がスピードを速めると、彼らの姿は小さくなっていった。 貧困国で経験したことは、私の想像を超えることばかりだった。だからこそ、深く私の胸を打ったのだ。
赤川 琉偉 :ライター・ナックルボーラー