粗利を制するものは小売経営を制す。人口減少、脱炭素、働き手の不足に対応する指標「GMROI」とは
業界のトップランナーから学ぶ「高速修正力」
業績が好調な業界のトップランナーから学べる要素をご紹介します。 ファーストリテイリングは、世界規模で情報製造小売業を実現することを掲げ、ファッションという変化の激しい舞台で「無駄なものは作らない、運ばない、売らない」ことを目指しています。(出典:) このことからも、毎日蓄積されるデータから商売状況を見ながら、MD計画を軌道修正したことが業績に寄与したのではないかと推察します。PDCAを高速で回す手法は、どのような業種、企業規模であっても見習うべきではないでしょうか。 アダストリアも修正力が秀でています。「WWDJAPAN」6月3日号のアダストリア特集によると、同社は創業当時は紳士服の専門店でしたが、メンズカジュアルに変更し、チェーンストア手法で店舗を拡大しました。その後、仕入れ商品だけでは他社と同質化するため製販一体型のSPAへとビジネスモデルを修正してきました。 このような修正力が社内に浸透しているのは、失敗を恐れないカルチャーが根付いているからだそうです。 失敗することよりも、前年踏襲で守りに入ることの方が良くないことや、失敗から何を改善するのかが重要だといいます。 では、このような挑戦し修正するカルチャーをどのように作ればよいのでしょうか。これは至極基本的なことですが、「日々のコミュニケーション」です。 仮に店舗を閉鎖する意思決定をする際に、現場で働くスタッフは落ち込んだり、反発心を抱く可能性もあります。しかし、アダストリアでは、そういう時こそ現場と深くコミュニケーションをとるべきで、「今は店舗を閉鎖しますが、今後はこのような方向性で考えています。だからこれからも一緒に頑張りましょう。」というようなコミュニケーションを大切にしているそうです。 業界のトップランナーに倣って、今までよりも早く軌道修正をする力は必須ではないでしょうか。
粗利を重視した経営の神髄は「付加価値の付与」
売上には、粗利を伴う良い売上と粗利を伴わない悪い売上があります。 本記事では、さまざまな観点からGMROIの重要性を説いてきましたが、つまるところ、良い売上を増やして、悪い売上を減らすということに尽きます。 これを実現するためには、付加価値を付けて原価を上げ、今までより在庫を少なくする必要があります。 付加価値を付与することこそが粗利を重視した経営の神髄です。単に商品に付加価値を付けることだけを言っているのではなく、スタッフのスキル向上や売り場環境の改善、販売データから示唆を見出して隠れた売れ筋を見つける力も付加価値です。 このような力を、ひとつずつ身につけていくことが非常に大切です。 2024年2月期(2023年度)決算では、「GMROI(商品投下資本粗利益率)」が16社のうち10社が悪化という結果でしたが、次回の決算でどのように改善していくか、目が離せません。 瀬川直寛(せがわ・なおひろ) フルカイテンCEO 慶應義塾大学理工学部を卒業後、外資系IT企業などを経てベビー服などのECを起業。在庫問題が原因で3度の倒産危機を経験したが、その過程で外的要因や予測不能な変化に強い小売経営モデルを創出した。そのモデルを「FULL KAITEN」として2017年にクラウド事業化。現在はEC事業を売却した。同社の在庫分析サービス「FULL KAITEN」は中小から大手のアパレル小売、雑貨小売、スポーツ小売など累計約200ブランドが導入している。 Photo:Getty Images
瀬川 直寛