粗利を制するものは小売経営を制す。人口減少、脱炭素、働き手の不足に対応する指標「GMROI」とは
小売各社の在庫の持ち方が二極化
弊社が公開した、2024年2月期・大手アパレル小売の決算分析記事では以下のような示唆を得ることができました。 2024年2月期のGMROIは、前年の2023年2月期と比較すると16社のうち10社が悪化。13社が増収、11社が営業増益となったPL(損益面)の動きとは明らかに異なる傾向 上記の決算から分かるのは、単純に在庫を増やした企業と、極力在庫を抑えながら商品単価を上げた企業の二極化が見えてきたということです。 決算で上方修正するほど業績が好調な企業は在庫を積むべきで、決算でも良い結果に繋がっているので正しいことだと思います。しかし、上方修正できるような業績状況ではない企業が従来のように製造原価を抑えることを目的として在庫を積んでも、業績に良い影響を与えることはほぼないということが今回の決算で改めて浮き彫りになりました。 ファーストリテイリングやナルミヤインターナショナルは、決算時に上方修正をしています。 ユニクロを展開するファーストリテイリングは、仕入れ額は1.3%の微増で、2月末の在庫高は5.3%の減少となっています。ユニクロは2023年度、国内店舗は暖冬で販売に苦戦したことを認めつつも、「比較的長い期間着ていただけるアウターを増やすなど、商品構成の見直しに着手」していると公表しています。 同社のIR資料によると、国内ユニクロ事業の秋冬在庫が前年同期から減少したほか、3月以降に販売する春夏商品の発注を後ろ倒しにしていることが影響しています。2024年春夏は昨年のキャリー品も活用している可能性があります。 なおかつ、同社は「年間を通して需要がある商品を特定し、商品構成の拡充を図る。こうした変革は2024年3月以降に顕在化し、2024年9月以降には成果が出てくる」とみています。暖冬の恒常化に向けたMDへの布石と言えるでしょう。 他方、子ども服を手がけるナルミヤ・インターナショナルは、仕入れを増やして期末在庫高を20%超増やしています。 「暖冬による秋冬商品の滞留在庫と新規ブランド在庫」が要因です。各社とも暖冬で冬物在庫に悩みましたが、ナルミヤ・インターナショナルの場合、セールや値引きなどによって無理に在庫消化を追わなかった結果としての「滞留在庫」だと筆者は推測します。IR資料にあえて「暖冬による秋冬商品の滞留在庫」と明記しているところに、同社がネガティブに捉えていないことが窺えるからです。 各社が苦戦するなか、ファーストリテイリングやナルミヤ・インターナショナルは、冒頭で紹介したGMROI(在庫効率)の数値が右肩上がりを続けています。ブランド力強化や、気候を加味した商品計画が一定の成果を見せているといえるでしょう。 各社のGMROI(商品投下資本粗利益率)について、コロナ禍後5年間の推移を示したもの (出典:FULL KAITENブログ) 一方、決算状況が悪化しており在庫を積んでいる企業は、上方修正はせずに暖冬の影響を直に受け対応が後手に回ったと推察されます。 増益している企業は、商品に付加価値をプラスし値上げが受け入れられたことで、商品単価が上がっています。 今後の課題は「いかに商品単価を上げることができるような付加価値を付けられるか」につきます。その上で、過度なセールを控えるための販売力をどのように付けるかも重要です。