たくさんの男性保育士が活躍する保育園「どろんこ会」。追求する理想の「保育」とは?
男女両方の保育士がいることが、自然な社会本来の姿
――「どろんこ会」はいつ頃から、どういった狙いで男性保育士を積極的に登用してきたのでしょうか? 安永さん(以下、敬称略):1998年に第1号園となる小さな家庭保育室を埼玉県にオープンしてから、全国で約170の保育関連施設を展開する現在まで、どろんこ会では一貫して「男性保育士がいるのは当然のこと」という認識で、男女両方の保育士を採用してきました。 理由はいくつかありまして、1つは、保育業界に変革の必要性を感じたことです。 そもそも保育所の制度ができたのは昭和22年(1947年)で、戦後に焼け野原となった日本を復興させる中で、働きに出なければいけない女性を支える措置として保育園が誕生し、保母(現在の保育士)という仕事も生まれています。 その経緯に異論はないのですが、保育園の役割が幼児教育の場へと移り変わってきた現在にあっても、業界はいまだに女性の割合が圧倒的に高く、評価制度・人事制度・キャリア支援制度を持つ保育園がまだまだ少ない状況にあり、長期的に勤める昇給を伴った働き方が十分に整備されていません。 結婚や出産で退職することを前提に、新卒の採用を続けて人件費を抑える構造を変えなければ、男性保育士の増加はもちろん、保育士が生涯やりがいを持って取り組む仕事である、という職業地位の向上が実現できない、と考えました。 もう1つは、社会で生きぬく力を育む場であることを考えたとき、男女両方の保育士がいるのが社会の自然な姿に近いだろうと考えたことです。 小・中学校の教員は男女比が半々であることが多いのに対し、保育の現場だけが女性に偏っているのは環境として不自然です。また、子どもたちが将来生きる世界は、例えば、ロボットの上司がいて、AIの部下がいるような未来かもしれません。 そこで役立つのは「自分で考え、行動する力」で、私たちの園ではそれを育むために、畑仕事を教えたり、銭湯に連れて行ったりとさまざまな体験の機会を提供しています。男女の保育士がいたほうが子どもに経験させられることの幅も広がるはずです。 ――男性保育士の登用を進めてきたことで、保育にプラスの効果が表れていると感じるのはどういう面でしょうか? 安永:男だから、女だからという理由で保育の質が変わることはない、というのが前提だとご理解いただいた上での話ですが、男性保育士が増えたことで、保育の活動の幅が広がっているのは事実です。 例えば、ある男性保育士が近くの川に魚を捕るわなを仕掛けて、子どもたちに魚がかかっているのを見せてあげた、というエピソードがあります。 また、うちの園では保育士の安全管理のもとで火や水を使う活動もしており、冬は園庭でまきや拾ってきた枝でたき火をすることがあります。そんなとき「ウインナーを焼いておやつに食べよう」といった、アウトドア発想のアイデアを出すのは男性保育士が多い傾向にあり、それを見ていた女性保育士が「こういう遊びの展開もあるのか」と気づかされ、園全体に広まって定着していく、という流れがあるのを感じます。 男女の保育士がいることで生まれる発想と行動力が、子どもたちに新しい体験を提供しているのだと思います。 もう1つ、日本には沖縄県のようにシングルマザー率が高い地域もあり、当会が運営する沖縄の園も、シングルマザーの家庭が多いです。父親がいない子どもにとって、男性保育士は、男性に甘えたり、スキンシップを取ったりできる貴重な存在になっているんです。