たくさんの男性保育士が活躍する保育園「どろんこ会」。追求する理想の「保育」とは?
男性的・女性的、両方の関わり方が子どもには必要
ここで実際に男性保育士として働く当事者の声を聞いてみましょう。内箕輪どろんこ保育園で施設長を務める佐藤慶太さんです。 ――保育士を目指したきっかけについて教えてください。 佐藤さん(以下、敬称略):大学進学を検討するにあたり、友人に誘われて保育系の大学のオープンキャンパスに行ったのがきっかけで保育士という仕事を知りました。子どもが好きでしたし、好きなことを仕事にできるのが一番だと考えていたので、まずはそこに進学することを決めたんです。 保育士になる決意が固まったのは大学3年のときです。保育園に赴き、1日の保育計画を立てて実践するまでを任される実習があり、私は子どもたちと一緒にストローで飛行機を作って園庭で遊ぼうと考えていました。 自分で作ったおもちゃで遊ぶ、という達成感を味わってもらおうという狙いだったのですが、実際は4歳児にとって私の提案した工作は複雑過ぎて、保育士が付きっきりで手伝わないと完成させられなかった。その失敗が悔しくて、作り方をやさしくして翌週に再挑戦したところ、とても楽しそうに遊んでくれたんです。 大人の対応によって子どもたちの体験が全く変わってしまうことに、この仕事の奥深さと面白みを感じたんです。 ――日々、仕事をする中でどういうときにやりがいを感じますか? 佐藤:子どもが何かに夢中になっている姿を見るときですね。難しいことに向き合ったり、できるようになって喜んだり……。そういう真剣な眼差しや表情に立ち会えるのは本当に幸せです。 例えば、うちの園では木登りを推奨しているんですが、最初は怖くて高い枝まで登れなかった子が、毎日挑戦するうちに、少しずつ登れるようになっていく。その「もっと上まで行きたいけど、怖くて行けない」という葛藤の表情も、「一番上まで登れた」と報告してくれたうれしそうな顔、どちらも印象的で。そういったプロセスに寄り添えることにやりがいを感じますね。 ――男性保育士として、園児や保護者の方とのコミュニケーションの面で、ジェンダーバイアスを感じることはありますか? 佐藤:ありがたいことに、ほとんど感じたことはないんです。ただ、子ども一人一人の人権を守るために、着替えなどの際には配慮するように気を付けています。 保護者からそのように要望されたことは今までないので、信頼していただいているとは思うのですが、世間のニュースを見ていますと男性保育士による問題も起こっている。配慮しないよりはしたほうが良い、と考えています。 ――世の中に男性保育士が増えることで、未来にどういう変化が生み出されるとお考えでしょうか。 佐藤:保育士の仕事に男女の違いはないにしても、子どもたちと接する中で男性的な関わり方、女性的な関わり方というのは存在しますし、どちらも必要です。特に子どもたちと遊ぶ場面では、保育士自身の実体験も反映されます。 例えば当会では、泥だらけになることに抵抗がないのは男性保育士の方が多い、といった傾向も見られます。乳幼児~幼児期は人格形成をしていく時期ですから、多様な保育士がいることで子どもたちもいろいろな体験ができるようになり、それが将来、子どもたちが主体的に生きていくための土台を広げていくことにつながるのではないでしょうか。 ――そういう未来をつくっていく上で、当事者として感じる課題はありますか? 佐藤:保育業界全体で待遇面の改善をするのは切迫した課題だと感じています。特に公立園と私立園の格差は、運営主体によって給与に大きな開きがあるのが問題だと思います。 実際、私も保育士3年目のとき、この仕事を一生続けていけるのか悩んだことがあり、一番の理由は給与面でした。でも、せっかく資格を取り、仕事そのものにやりがいと楽しさを見出しているからには、もう一度別の場所で頑張ってみようとどろんこ会に転職した経緯があります。 当会に来て印象深かったのは、入社間もない頃に近隣園の男性保育士の先輩方が研修会に誘ってくれたことです。以降、一緒にキャンプをしたり、食事をしたり、と公私共々仲良くさせてもらっています。 業務上の役割として男女の違いは存在しなくても、男性が少数派である職場環境の中では同性同士のつながりが安心感につながる面があります。そういった意味で、何かあったときに気軽に相談ができる男性同士の横のつながりを整備し、「仲間がいるんだ」と存在を可視化することも、男性保育士の働きやすさを考える上でプラスになるのではないでしょうか。