オードリー・タン「2025年には、プロソーシャルメディアという“新しい波”がやって来る」
真摯な対話を育むデジタル空間
さらにプロソーシャルメディアは、ソーシャルメディアの中央集権化と、それによって一部のテック企業に過度にキュレーションの権力が集中する問題にも対処する。その手段として分散型のソーシャルネットワーキング・プロトコルを採用し、異なるソーシャルメディア間をコンテンツがシームレスに流通できるようにしている。 例えば24年には、メタ・プラットフォームズのSNS「Threads」が分散型SNS「Mastodon」やWordPressなどを含む相互接続可能なソーシャルメディアプラットフォームのグループ「Fediverse(フェディバース)」に参加した。これによって最終的には、Threadsのユーザーが他のソーシャルネットワーク上のアカウントをフォローしたり、投稿を公開したりできるようになる。24年2月には、もうひとつの分散型プラットフォームである「Bluesky」(旧ツイッターの共同創業者であるジャック・ドーシーが出資)も一般公開された。 分散化は、ユーザーが自身のデータとオンライン体験をより強力にコントロールできる、より民主的なインターネットを実現する可能性を秘めている。それはオープンなプロトコルを通じて相互接続されたローカルコミュニティの増加につながるだろう。ユーザーの間においても、その価値は高まっている。シンシナティ大学の研究によると、Mastodonのような分散型ソーシャルネットワークのユーザーは、主にデータマイニングから自分たちの情報を守れるという理由で参加しているという。 このアテンションエコノミーから抜け出すには、デジタルプラットフォームの設計そのものにも大胆なイノべーションが必要になる。25年、わたしたちは人工知能(AI)システムを使って理解を促進し、分断を埋めるコンテンツを優先的に表示することで、対立ではなく真摯な対話を育むデジタル空間の構築を始めることになるだろう。 例えばスタンフォード大学と、グローバルなセキュリティ問題やオープンな社会への脅威に取り組むグーグルのシンクタンクチーム「Jigsaw」は、思いやりや敬意、好奇心といった価値観に基づいてソーシャルメディアの投稿やコメントを評価するAIツールを開発した。24年4月に発表された研究では、このような価値観に基づいて投稿やコメントをランク付けすることで、ユーザー間の敵意が大幅に減少することが示されている。 2025年には、新しい波となるプロソーシャルメディアのプラットフォームが、ついにオンライン上に生じた分断を橋渡しするようになる。そして、わたしたちを結びつける共通点に光を当てることになるだろう。
オードリー・タン | AUDREY TANG
台湾初のデジタル発展省大臣を務めた。8歳から独学でプログラミングを学ぶ。中学校を中退後、15歳でプログラマーとして仕事を始め、19歳の若さでシリコンバレーで起業。
WIRED UK magazine