【年金の繰下げ受給】夫婦の片方だけを繰下げたらお得って本当?「年金を賢く増やす方法」とは
8月15日は、今年4回目の年金支給日です。今年度の年金額は昨年度から2.7%の増額となっていますが、物価高の影響を受けて増額した実感が湧いていない人も多いのではないでしょうか。 ◆【写真4枚】片方だけ繰下げ受給したときのメリットは?公的年金控除の金額&加給年金の支給額を見る 年金受給額を増やす方法として「年金の繰下げ受給」があります。繰下げ受給は、繰下げの仕方によって、年金額のさらなる増加が可能です。繰下げ受給のコツやポイントは、一体どこにあるのでしょうか。 この記事では、年金の繰下げ受給で年金を賢く増やす方法について解説します。将来の年金資産を万全に備えておきたい人は、ぜひ参考にしてください。 ※編集部注:外部配信先ではハイパーリンクや図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はLIMO内でご確認ください。
繰下げ受給のよくある勘違い
年金には、20歳から60歳までの国民全員が加入する国民年金と、会社員や公務員が加入する厚生年金があります。どちらも繰下げ受給ができますが、繰下げは国民年金・厚生年金それぞれ別々にできるのが特徴です。 また、年金の受給権は世帯ではなく受給権者本人に与えられるため「夫だけ繰下げ」「妻だけ繰下げ」のように夫婦別々で年金の繰下げが可能です。そのため「会社勤めの短かった妻の厚生年金だけ繰下げする」「夫は保険料を納付していない期間があったから国民年金だけ繰下げする」といった、自由な繰下げのプランニングができます。 特に、夫婦のどちらか一方だけ年金受給を繰下げると、控除や追加で支給される年金などの制度が利用できるため、より多くの金額を受給できます。なぜ夫婦のどちらかだけが繰下げ受給するとよいのか、次章で解説します。
年金を賢く増やすには「片方だけ繰下げ受給」するのが良い理由
年金を夫婦のどちらか一方だけ繰下げ受給するのがよい理由は、以下の3つです。 ・公的年金控除が使える ・加給年金がもらえる ・振替加算がもらえる 特に、夫が年上、妻が年下で多少年齢差がある夫婦だと、年金の繰下げ受給の恩恵を最大限受けられます。「夫婦の片方だけ繰下げ」がお得な理由を、1つずつ見ていきましょう。 ●公的年金控除が使える どちらか片方だけ年金の繰下げ受給をすれば、公的年金等控除を最大限適用できるため、手取り年金額の増加が見込めます。公的年金控除は、年間の年金受給額に応じて、所得が控除される制度です。所得が1000万円以下の場合の控除後の金額は、以下のとおりです。 〈65歳未満〉 ・60万円以下:0円 ・60万円超130万円未満:収入額-60万円 ・130万円以上410万円未満:収入額×0.75-27万5000円 ・410万円以上770万円未満:収入額×0.85-68万5000円 ・770万円以上1000万円未満:収入額×0.95-145万5000円 ・1000万円以上:収入額-195万5000円 〈65歳以上〉 ・110万円以下:0円 ・110万円超330万円未満:収入額-110万円 ・330万円以上410万円未満:収入額×0.75-27万5000円 ・410万円以上770万円未満:収入額×0.85-68万5000円 ・770万円以上1000万円未満:収入額×0.95-145万5000円 ・1000万円以上:収入額-195万5000円 年金を繰下げする場合、65歳以上の控除が適用されます。たとえば、専業主婦の妻が国民年金を年間110万円になるまで繰下げして受給額を増やせば、全額控除が可能です。税金をかけずに年金額のみ増やすことができます。 ●加給年金がもらえる どちらか片方の国民年金のみを繰下げることで、加給年金の受給が可能です。加給年金は、厚生年金保険に20年以上加入した人が65歳到達時に、生計を共にする配偶者や子どもがいる場合に支給される年金です。妻は65歳になるまで、子供は18歳になった年の年度末まで支給されます。 加給年金の支給額は、以下のとおりです。 ・配偶者:23万4800円 ・子ども(1人目・2人目):1人につき23万4800円 ・子ども(3人目以降):1人につき7万8300円 加給年金は、厚生年金を繰下げしている場合は支給が停止されます。加給年金は厚生年金に上乗せされる形で支給されるためです。しかし、国民年金だけ繰下げすれば、厚生年金は65歳から受け取ることになるため、加給年金を受け取りながら年金の増額が可能です。 特に「夫が年上、妻が年下」の場合は、加給年金を受け取れる期間が長いため受給額を大きく増やせます。たとえば、夫が65歳になった時点で専業主婦の妻が59歳の場合、妻が65歳になるまでの6年間、23万4800円の加給年金が支給されます。この間、夫の基礎年金を6年繰下げしていれば、1年あたり8.4%増額されるため、50.4%も国民年金を増額できるのです。 通常どおり受給するのに比べて金額を大きく増やせるため、年の差がある夫婦はぜひ「加給年金+国民年金の繰下げ」を試してみましょう。 ●振替加算がもらえる 夫婦どちらか片方の年金のみを繰下げした際には加給年金の受け取りが可能ですが、加給年金の支給停止後には振替加算が受け取れます。 振替加算は、配偶者が65歳になり自身の加給年金の支給が停止された際に、本来支給されるはずだった加給年金が、配偶者の国民年金に上乗せされる形で振り替えられるものです。振替加算は、配偶者が国民年金を受け取っている限り、加算し続けられます。 振替加算の対象となる人は、以下のとおりです。 〈振替加算の対象者〉 1.大正15年4月2日から昭和41年4月1日までの間に生まれていること 2.配偶者が老齢基礎年金の他に老齢厚生年金や退職共済年金を受けている場合は、厚生年金保険および共済組合等の加入期間をあわせて240月未満であること 3.妻(夫)の共済組合等の加入期間を除いた厚生年金保険の35歳以降の(夫は40歳以降の)加入期間が、以下の年数未満であること ・昭和22年4月1日以前:180月(15年) ・昭和22年4月2日から昭和23年4月1日:192月(16年) ・昭和23年4月2日から昭和24年4月1日:204月(17年) ・昭和24年4月2日から昭和25年4月1日:216月(18年) ・昭和25年4月2日から昭和26年4月1日:228月(19年) たとえば、夫が65歳になった時点で専業主婦の妻が59歳の場合は、6年間加給年金が支給されます。妻が65歳になった時点で夫の加給年金は支給停止となりますが、代わりに妻の国民年金に振替加算が支給されます。このとき、夫のみ妻が65歳になるまでに国民年金を繰下げすれば、夫婦どちらも生涯増額分・上乗せ分の年金が受け取れるのです。 なお、振替加算は配偶者の国民年金に上乗せされる年金のため、自身の国民年金を妻が65歳以降になっても繰下げしていたり、配偶者も国民年金の繰下げしたりしてしまうと、振替加算は受け取れません。 ●妻が年上だった場合はどうなるのか もし妻が年上で夫が年下の場合でも、要件を満たせば加給年金や振替加算は受給できます。ただし、妻が65歳になった時点で厚生年金保険への加入期間が20年以上あり、夫が専業主夫として家庭に入っている必要があります。 夫婦どちらも共働きの場合は、夫が妻の扶養に入っていない限り、加給年金や振替加算の支給対象となる可能性はありません。ただし、公的年金等控除は夫婦構成に関係なく適用できます。そのため、夫婦2人とも社会で活躍している夫婦は、どちらかの年金を年間110万円になるまで繰下げして、控除を最大限活かしながら年金の増額が可能です。 夫婦どちらかの年金繰下げは、妻のほうを繰下げするほうがお得です。その理由について、次章で解説します。