4年越しの「EU離脱」実現 英国が負った代償とは?
議会承認目指し「総選挙」という賭け
しかし、この新合意には北アイルランドのEU離脱派から「切り捨てられた」という批判が噴出。労働党をはじめ残留派の野党も、新合意の賛否を国民投票で問うべき、あるいは総選挙を実施すべきと批判したため議会審議は進まず、ジョンソン首相が当初目指していた10月末のEU離脱は困難になりました。 その結果、ジョンソン首相は10月28日、離脱期限を2020年1月31日に再々延期することでEUと合意。その上で、翌29日には議会下院を解散し、総選挙に打って出る方針を打ち出したのです。 それまでイギリス国内で離脱派と残留派が激しく争った経緯をみれば、総選挙はジョンソン首相にとって大きな賭けだったといえます。しかし、実質的にジョンソン首相への信任投票となった12月12日の総選挙は、フタを開けてみれば与党・保守党の圧勝でした。保守党は解散前より50議席近く多い365議席を獲得したのです。 この歴史的大勝は、それまで野党支持者の多かった地域でも保守党への転向が増えた結果でした。とりわけ、所得水準が低く、労働党支持者が多いイングランド中部から北部にかけての地域では、英紙タイムズによると、労働党が2017年総選挙と比べて20%も議席を減らしました。 この選挙結果は、EU離脱をめぐる議論が長引き、国内の分裂が加速するなか、少しでも早く決着をつけたいという心理が多くの有権者に働いたためともみられます。 ともあれ、下院の過半数を握った保守党の下、離脱協定案に関する議会審議はそれまでになくスピーディーに進み、2020年1月22日に議会での手続きはすべて終了しました。翌23日、エリザベス女王の裁可を得て、EU離脱の関連法案が成立。国民投票から3年7カ月後のことでした。
EUにとってのダメージは最小限
長い混乱の末に実現したイギリスのEU離脱は、EUとイギリスにどんな影響を残すのでしょうか。 まずEUにしてみれば、加盟国の中でドイツに次ぐ経済力を持つイギリスの離脱によって市場規模が縮小するといった損失は免れないものの、交渉結果は概ね満足できるものだったといえます。 当初EUが最も恐れたのは、イギリスに続く国が続出することでした。そのため、イギリスに有利な離脱条件にならないよう、EUは大きな譲歩をしませんでした。離脱実現までにイギリスで混乱が長引いたことも、反EU感情がうずまく加盟国にブレーキをかけさせる効果を生みました。 その結果、イギリスに触発されてEU離脱を目指す国は、現状ではほとんど見受けられません。実際、EUとの確執が最も目立つ加盟国の一つ、ポーランドのモラビエツキ首相は2020年1月に来日した際、イギリスに続いて離脱する可能性を明確に否定しています。 つまり、EUにとってダメージは最小限に抑えられたとみてよいでしょう。ジョンソン首相との合意に達した後、ユンケル委員長は「この取り決めが将来の野心的な自由貿易協定につながる」と楽観的な見通しを語っています。 ただし、アメリカとのパイプ役だったイギリスが抜けたことで、今後EUとアメリカの間で足並みの乱れが大きくなる可能性は排除できません。その場合、中国やロシアなどへの対応で温度差が目立つことも想定されます。