4年越しの「EU離脱」実現 英国が負った代償とは?
「イギリス」存続には新たな課題残す
一方、EU離脱はイギリスにとって大きな代償を伴うものになりました。とりわけ深刻なのが国内の分裂です。 例えば、2014年にイギリスからの分離独立に関する賛否を問う住民投票が行われたスコットランドでは、2019年選挙での保守党大勝を受け、再び住民投票を要求する声が噴出。スコットランドでは首都ロンドンなどイングランドへの反感が強いだけでなく、EU残留派が多いため、イギリス政府に引きずられてEUから離脱することに拒絶反応が高まっています。 さらに、北アイルランドでもジョンソン首相の離脱条件への不満が募っています。もともと北アイルランドにはイギリスとの一体性を強調するロイヤリストと、アイルランドとの民族的な共通性を重視するリパブリカンの間に対立があります。このうち、ロイヤリストにはジョンソン首相に「裏切られた」という批判があり、リパブリカンの間にはアイルランドとともにEUに残留することへの希望があります。 つまり、北アイルランドでは立場を超えて、新合意に基づくEU離脱への反対意見が強いのです。北アイルランド議会はイギリスのEU離脱から4年後に、引き続きEUのルールに沿ったままでいるか否かについて決定できることになっていますが、北アイルランド内のこの対立が、2024年にどんな決定をもたらすかは予断を許しません。 こうしてみたとき、EU離脱はイギリスにとって大きな一歩だったとしても、「イギリス」という連合王国の存続に向けた新たな課題を残すものともいえるでしょう。
----------------------------------- ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo!ニュース個人オーサー