「戦後最短」総選挙、なぜ投票用紙の製造は間に合ったのか…メーカーが明かす「異例の事態」の乗り越え方
第50回衆院選は15日公示される。内閣発足から8日後の解散、26日後の投開票はいずれも戦後最短だ。総選挙の「正式決定」からわずか1週間後の「投票開始」に投票用紙の準備は間に合うのだろうか? メーカーに聞くと、「異例の事態」が起こっていた。(デジタル編集部 古和康行) 【写真】時間がないため、啓発ポスターを手作りする選管も
紙じゃない投票用紙
「今回は異例の選挙でした」
10月11日、東京・御茶ノ水。合成紙メーカー「ユポ・コーポレーション」の応接室で、投票用紙の製造事業に20年以上関わる加工品部の鹿野民雄部長(55)は興奮気味に語った。
投票用紙は、実は「紙」ではない。紙は木材の繊維をほぐした「パルプ」をシート状にしたものをさす。最近の投票用紙は、同社のオリジナル商品「ユポ」が使われていることが多い。「ポリプロピレン樹脂」に無機充填剤を混ぜて熱で溶かし、紙のような厚さになるまで引き延ばして作る。つまり、一般にはフィルムと呼ばれるものだ。
ユポは樹脂で作られるため、「折れにくい」特性をもっている。投票用紙が投票箱の中で自然に開くので、素早い開票を求められる自治体からのニーズは高く、「2020年以降の国政選挙ではほぼすべての自治体でユポの投票用紙が使われている」(ユポ担当者)という。
総務省によると、昨年9月時点で選挙権を持つ「選挙人名簿登録者数」は全国で約1億462万人。前回衆院選の投票率は55・93%だったとはいえ、在庫を切らし、投票用紙がないから投票できないという事態は許されない。鹿野さんによると、「選挙と一口に言っても、投票用紙は小選挙区と比例選挙、最高裁国民審査と3種類ある。全有権者が投票できる分の紙を静岡県内の倉庫に置いてある」という。
ちなみに、静岡に倉庫がある理由は「日本の真ん中だから」(鹿野さん)。今回の選挙で受注した分のユポはすでに納品作業が行われたという。今後、投票用紙の印刷事業を各自治体から請け負う印刷会社によって、印字が行われ、自治体に納められ、投票に使われるという。