「戦後最短」総選挙、なぜ投票用紙の製造は間に合ったのか…メーカーが明かす「異例の事態」の乗り越え方
ユポによると、印刷会社からの注文が9月20日頃から舞い込み、「9月中には想定販売数の半分が売れた」という状況だった。鹿野さんも「選挙日程が決まる前に投票用紙を受注することは少なかったが、今回は異例の多さだった」と明かす。
今回の衆院選の場合、石破首相が衆院を解散したのが10月9日。期日前投票が始まるのが16日からだから、わずか1週間の間に紙を発注し、受け取り、印刷し、輸送して、配る……。どう考えても間に合わない。「自治体や印刷会社が9月中に発注できるように工夫したのだろう」と鹿野さんは推し量りつつ、「今回ばかりは印刷が間に合わない自治体も出てくるのではないか」と心配した。
Xデーは「G7」
ユポはどのように構えていたのか。「情勢を見ながら在庫を積み増している」と鹿野さん。「有権者全員分の投票用紙」という膨大な在庫を管理するとなれば、コストもかかる。報道を確認するのはもちろんのこと、自治体や選挙関連の用具の製造会社などを訪問し、「いつ選挙が行われるか」を調査し、見込みをつける。
衆院選が1回行われれば在庫は激減するが、直後から補充を始め、時機を見て在庫をさらに増やす。この増紙分を”いつ”製造するかがミソで、鹿野さんが想定していたXデーは「2023年5月」だった。広島県でG7サミットが開催され、当時の首相は地元出身の岸田前首相だった。「地元のG7を成功させたら、その勢いのまま衆議院を解散するだろう」と踏み、社内では投票用紙の増紙を開始したという。
結果として、この時に総選挙はなかったものの、この時に投票用紙を積み増したことが「異例」の事態にスムーズに対応できた要因となった。
「割を食って」でも
取材当日、ユポの会社玄関には新卒採用の案内の紙が貼られていた。ユポ紙は選挙のたびに重用される。「安定企業」だけに学生人気も高いものかと思ったら「知名度がなくて……」(担当者)と苦笑い。投票用紙が大量に売れるといっても、不意の選挙に備えて投票用紙を保管するコストも「相当支払っている」(鹿野さん)という。