「移民を排除する」トランプと、彼を支持した「MAGA」主義者の正体…崩れゆく「アメリカの前提」とこれからの30年間に「世界で起きること」
トランプ次期大統領が主要ポストの人事を固めた。政権構想が徐々に明らかになるなか、世界はアメリカのウクライナ情勢や中国、北朝鮮への対応がどう変わるのか、固唾をのんで見守っている。 【写真】大胆ショットに全米騒然…トランプ前大統領の「娘の美貌」がヤバすぎる! 社会学者の橋爪大三郎氏は、「アメリカの前提が崩れれば、国際秩序の前提も壊れてしまう」と語る。 なぜ、トランプは再選されたのか。彼を支えているアメリカ人とはいったい誰のことなのか。そしてこれから30年間に世界ではどんなリスクが待ちかまえているのか。 橋爪氏に解説してもらった。
移民を排除したいのは「移民」
――傍若無人で、やんちゃなイメージのトランプが大統領に選ばれてしまうのはなぜなのか。アメリカ社会の背景を教えてください。 アメリカ人自身にも、再選されたトランプが何をするのか、わかっていないと思います。混乱のきわみ。たとえるなら、「学級崩壊」が起こっている。学級委員タイプの候補はいやだから、反対のタイプに投票した。 まず、トランプの本質は何か、を考えてみるべきでしょう。彼は「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン(MAGA)」と言っています。さらに「ボーダー(国境)を守れ」とも言っている。つまり、移民は入って来るな、なのです。 1期目も今回も、こんな決めゼリフで人びとの支持を集めました。それが人びとの、無意識を掘り起こした。 今回、新しく加わったのが「マス・デポテーション(まとめて送還)」です。不法移民の人びとを国外追放しようと言っている。 マス・デポテーションは、ギクッとする言葉です。また、トランプは「独裁者になる」とも言っている。これもギクッとします。ナチス・ドイツの独裁者ヒトラーが、ユダヤ人を国外に大量移送したことが思い浮かびます。 ――移民を認めない、まさに移民国家アメリカの前提が失われようとしています。 アメリカは移民の国ですが、いつでも移民を歓迎してきたわけではありません。移民がどんどん来て、来すぎたからと門戸を閉ざしたことが何度もあった。欧州の移民も制限されたことがあるし、ユダヤ人も入って来るなと言われた時期があった。 特に、1924年の移民法は、東欧や南欧や、アジア出身者を厳しく制限しました。日本ではこれを「排日移民法」と呼びました。日本人にとって苦い記憶です。 排日移民法の結果、何が起きたか。 日本はずいぶんと右傾化し、対米関係が悪化しました。ユダヤ人もアメリカに行けなくなり、エルサレムに行くしかないとシオニズムが盛んになった。やはり右傾化したのです。 このように移民大国アメリカが移民を制限するだけで、世界中に影響が及んでしまうというのが、歴史から読み取れることです。 では、なぜいまアメリカは移民の受け入れに反対なのでしょうか。 実は移民受け入れに反対なのは、少し前に移民で入ってきた人びとです。オーストラリアでもそうなのですが、たいてい「移民を排除しろ」と声高に叫ぶのは、実は移民してきたばかりの人びとです。 苦労の多い単純労働をして、家族を支え、子どもを育ててやっとひと息ついたところに新しい移民がやってくる。すると賃金が上がらなくなるうえに、自分の職さえ危なくなってしまう。ですから、一番切実に「移民に来てほしくない」と思うのは、所得が低い移民してきたばかりの人びとなのです。