魅力的なサッカーで注目のJ3福島の“新米監督”。川崎一筋だった寺田周平の就任までの笑いあり涙ありの裏話【インタビュー1】
就任に迷いがなかった理由
川崎のために力を注いできた男に転機が訪れたのは昨年末だった。現役時代に師弟関係を築き、現在は福島のテクニカルダイレクターを務める関塚隆氏、そして福島の玉手淳一強化部長から監督のオファーを受けたのだ。 光栄な話ではあるが、川崎を離れることに迷いはなかったのか。誤解を招かないようにと前置きしながら、指揮官就任の顛末を振り返ってくれた。 「表現が難しいのですが、正直な言葉で話すと、迷いはなかったと思います。S級ライセンスを取ったあとも、フロンターレのトップチームのコーチなどをやらせていただいて、本当に色々な経験をさせてもらい、感謝し切れない想いです。ただ、年齢を考えた時に、もし監督の話をいただけたら、基本的にはチャレンジしようと決めていた部分はあったんです。それは去年の夏あたりからフロンターレの強化部にも伝えさせていただいていました。具体的にどういうオファーをいただけるかは分からなかったですが、J2、J3、JFLに関わらず、挑戦しないと後悔するという想いがありました。 それに福島が目指すスタイルは自分のイメージとも近かった。なんだか面白いサッカーができそうだなと。だからこそ様々な意味でスタートを切るには最高のチームだなと。関塚さんとまた一緒にやれることもそうですし、こんな巡り合わせがあるのかと、表現が難しいですが、運が良かった部分があったと思います。やっぱりJリーグの監督って60席しかないわけで、やりたいと言ってやれるものではない。それにS級の同期もみんな監督を目指している。だから断るっていう選択肢を僕は持つことができませんでした。 それに監督経験がない自分にオファーをくれたのは、相当なチャレンジだと思うんです。その期待に応えなきゃいけない、自分を選んで良かったって感じてもらえるように、頑張らなきゃなっていう気持ちにもなりました」 昨シーズンの佳境に密かに固めていた想い。それは一蓮托生で歩んできた鬼木達監督にも伝えていた。 「もちろんオニさんには最初に相談と言いますか、意思を伝えさせてもらいました。オニさんは『そうか。俺は正直残ってほしい気持ちがあるけど、周平のチャレンジを後押ししたい』と言ってくれました。そこからは、“監督とは”ではないですけど、色んな話をしてくれました。 4年間、オニさんの隣で本当に貴重な経験をさせてもらい、いざ監督になる時には、心得ではないですが、色んなこと聞くことができた。まさに最高の環境で、コーチをやらせてもらっていたんだなと改めて実感しましたね」 昨年末、天皇杯を制し、韓国での蔚山現代戦でACLのグループリーグの6戦無敗での突破を決めた川崎は、2023年の全日程を終えた。その間、新天地が決まっていたからと言って、寺田がコーチとして最後までチームのために働いたことは言うまでもない。 麻生の練習場で恒例の解散式が行なわれた時、寺田もチームの前で最後のスピーチをした。もっともそのエピソードもなんとも彼らしい。 「あの時、僕を含めてコーチングスタッフ4人がチームを離れることになっていたんですよね。シノさん(篠田洋介フィジカルコーチ)と高桑(大二朗GKコーチ)さん、あと吉田勇樹(コーチ)はアカデミーに行くことになっていて、みんな前に出て、挨拶をさせてもらいました。 そうしたらマネージャーが気を使ってくれたのか、僕の順番を最後にしてくれたんです。僕も感極まってしまうかなと想像していたんですが、前に話した3人が号泣していて、それを見たら逆に冷静になってしまって。あとで周りから『全然泣かないじゃないですか』って突っ込まれたんですけど(笑)、自分の伝えたかったメッセージをしっかり話すことができました」 いつでも笑顔が似合う男は、こうして川崎と良い別れを果たし、“新米監督”として希望を抱きながら福島へと旅立ったのである。 ■プロフィール 寺田周平 てらだ・しゅうへい/1975年6月23日、神奈川県生まれ。東海大を経て、川崎一筋でCBとしてプレーし、日本代表にも選出。引退後は川崎でアカデミーの指導などを務めながら、2020年からはトップチームのコーチとして鬼木達監督を支えた。今季から監督初挑戦として福島の指揮官に就任。 取材・文●本田健介(サッカダイジェスト編集部)
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