石川県の大地震でシロウトが支援すべきではない理由を、ビジネス視点で説明してみた。(中嶋よしふみ ウェブメディア編集長)
■メディアは軽々しく「必要な物資」を公表すべきではない。
2017年に起きた九州の災害では、現地に飛んだ報道ステーションのリポーターが手書きのフリップに現在避難所で足りていないものを書いて視聴者に伝えていた。どういった意図によるものかわからないが、報道機関として絶対にやめるべきなのだが、これもすでに今回の地震で多数発生している。 その報道を見て現地に支援物資を送ろうと考える人もいたかもしれない。無秩序に送られる支援物資が邪魔になることはすでに書いた通りだが、現地で必要とされる物資は刻一刻と変わる。 必要性・緊急性の高いものであればすぐに調達される可能性も高い。するとテレビで報じられた「一番必要なもの」はすぐに満たされ、「二番目に必要なもの」に使われるべき輸送インフラを、すでに不要となった物資の輸送で埋め尽くしてしまう。 この話に関係があるのはメディアだけではない。SNSで拡散される「○○市で紙オムツが足りていない」といった情報も全く同じだ。このような書き込みが大量にリポストやシェアをされることで、過剰な物資が現地に届いてしまう。そしてそれは他の物資が届くことを邪魔をする。 機会費用で説明したように、被災地の輸送インフラは極めて希少なリソース(資源)であることを理解すべきだ。
■被災地で支援物資が使われないまま山積みになる理由。
災害時に必ず発生するものが山積みのまま放置される支援物資だ。 せっかく届けられたオニギリ等の支援物資が被災者に届けられないまま腐っている、物資が山積みのまま放置されている、といった話が報じられるたびに、筆者は「一体どうなっているんだ?!」と腹を立てていた。しかしモノを適切に届けることは極めて難しい。 必要なモノを必要な分だけ必要なタイミングで届ける。 そのようなことを非常時に、しかも専門知識も経験もない自治体職員が出来るはずもない。 工場の生産管理で使われる「ボトルネック」という考え方がある。これを理解すれば被災地にモノが届かないことも県庁で物資が山積みのまま滞ることも分かる。 ボトルネックとは言葉通り、ビンの口が胴体より細くなっている部分を指す。ビンをひっくり返しても一瞬で中身が全部出ていくことは無い。ビンの中の水が外に出ていくスピードは口の細さに「制約」を受ける。 全国から大量の支援物資を石川県まで送ることは簡単だが、それを被災者の手元まで届けるには膨大な手間が発生する。物資を仕分けしてそれぞれの地域に割り振り、配送しなければいけないからだ。この手間が「制約」となって、ビンから水が一瞬で出ていかないような現象、つまり山積みで支援が滞る状況となる。