石川県の大地震でシロウトが支援すべきではない理由を、ビジネス視点で説明してみた。(中嶋よしふみ ウェブメディア編集長)
■足りないものは物資ではない。
支援物資はこういった仕分け作業や現地までの輸送が制約=ボトルネックとなる。県庁や市庁が支援物資であふれかえる一方で、物資が足りないと嘆く被災者がいる理由は仕分けと輸送がボトルネックになるからだ。 つまり足りないのは支援物資ではない。むしろ支援物資は災害のたびに過剰なほど送られている 2016年の熊本地震では支援物資を運んできたトラック運転手が荷物を下ろすために何時間も待たされることがあった。これはその時点で必要なものがすでに物資ではなく、荷物を下ろす、仕分けをする、被災者のもとに運ぶ、といった人手や輸送のためのトラックへと変わっていたことを意味する。 つまりは空っぽのトラックで駆け付けた方がよっぽど役に立つ可能性があったということだ。 個人が支援物資を送るべきではない理由は仕分けのリソースを浪費するからだ。一つの段ボール箱に古着や食料、水が入っていたところで、それを一体どう配ればいいのか。 まとまった数でまとめて届く水や食料と比べて仕分けのしやすさは雲泥の差がある。不用品を被災地に送るくらいならメルカリやYahoo!オークションで処分してそのお金を寄付すれば良い。 冒頭で紹介した防災を専門とする小村隆史教授は過剰な支援物資について以下のように説明する。 「『援助物資は被災地を襲う第二の災害である』というのは、我々の業界では常識なのですが、しかし、そのことは世間の常識にはなっておらず、未だにメディアの『○○が足りません』報道がなされています。力不足を思うのみ、です。」 過剰な物資が災害扱いされるほど深刻な問題になっているとは、支援物資の問題を記事で書いた筆者も腰を抜かすような話だ。
■プッシュ型とプル型とインターネット。
無駄になっても良いからとにかく支援物資を送れば良いという考えは正しくないと書いた通りだが、行政の最初の支援はこの形で行われる。これをプッシュ型と呼ぶ。 品目は食料・オムツ(子ども・大人)・ミルク・毛布・簡易トイレ・生理用品・トイレットペーパーの八つの支援物資が決まっていて、まずはそれを早い段階で送ってしまう。なぜならニーズに合わせた支援=プル型のデメリットは、何が必要なのか調べている間にも食料等が不足する可能性があるからだ。 そのため支援の初期段階は備蓄品、その次がプッシュ型、その後は早期にプル型に切り替えるのが正しい手順とされている。山崎製パンの支援が称賛されているように、スムーズなプッシュ型支援は行政や企業が行うものであり、個人によるプッシュ型の支援は迷惑行為でしかないと書いた通りだ。 現在は人工衛星を通じたネット環境を提供する、スターリンクというサービスがある。スターリンクは電源を入れてアンテナを空に向けるだけでインターネットに繋がる。 ネットさえ繋がれば、どの避難所に何人の被災者がいるのか、年齢や性別の構成、怪我人の有無、不足しているものなど、災害発生時の情報収集はこれまでにないほど容易になる。水がない、水はあるけど食料が足りない、小さな子どもはいないからミルクとオムツは不要、など避難所によって状況はバラバラだ。プッシュ型からプル型への早期移行にネットは最大限活用されるべきだ。 必要なものを必要な分だけ必要なタイミングに送る、トヨタのジャストインタイム方式は災害支援でも理想系と言える。当然、これは避難所の情報がなければ実現不可能だ。 執筆時点でも携帯各社の通信が繋がらない地域がまだある。電波の繋がらない避難所にはスターリンクを今からでも導入して良いくらい……と考えていたら早速活用されていると報じられている。 支援物資が行き届いた後は、ストレスの貯まる避難所生活で最も不足するものが娯楽だ。これもインターネットさえ繋がれば無限にコンテンツを提供出来る。YouTubeでも音楽でもゲームでもライブ配信でも漫画でも種類を問わない。電気、ガス、水道と並んで通信も立派なライフラインだ。 そしてスターリンクを運営するSpaceXはアンテナが無くとも携帯端末と直接繋がる衛星の打ち上げに成功したと年明けに報じられた。要するに衛星が携帯基地局になる仕組みで2024年内にサービスを開始するという。この仕組みにより災害支援は劇的に変わるだろう。