“スーパーカーの新境地” 新型NSXの技術は何がすごいのか?
1990年代に国産スーパーカーとして一世を風靡したホンダ「NSX」が復活します。新型モデルが8月末にお披露目され、2017年2月27日から発売されます。価格は2370万円で、初代の倍以上ですが、その車体に込められた技術の粋は自動車史における一つの到達点だとモータージャーナリストの池田直渡氏は評価します。新型NSXを技術面から池田氏が解説します。 【写真】次期NSXは3モーター・ハイブリッドで自動車の歴史を塗り替える
◇ すでにご存知のように、8月25日にホンダは新型NSXの国内発表イベントを行い。販売予約を開始した。 「もはやミニバン屋に成り下がった」と言われて来たホンダが、S660、シビックTypeR、NSXと立て続けにスポーツモデルをリリースし、F-1のホンダのイメージを取り戻そうとしている。それについての是非はもう何度も書いてきた。まず継続すること。普通の人が普通に買えるクルマにこそホンダ・スピリットを注ぐべきであるという持論は変わらない。 NSXにも言いたいことはある。継続生産のための事業プランはあるのか? 国内年間販売台数100台という計画は本当にユーザーの気持ちを汲んだものなのか? 疑義は尽きないが、一方でエンジニアリングの到達点としてNSXに注がれた技術の数々はそれのみを見て深い感銘を受けるものでもあった。なのでネガティブな話はここまでにして、その驚くべき技術の話を書こうと思う。
「フロントに2モーター」駆動力で曲がる
NSXは、3モーターハイブリッドのスーパーカーである。V型6気筒3.5リッター、DOHCツインターボユニットを核に、エンジンとトランスミッションの間にハイブリッドモーターを仕込み、SH-AWDと呼ばれるトルクスプリット機構で、後2輪に最適な回転力を与える。加えて、フロントには2つのモーターを備えて、左右輪を別々に駆動し、必要な場合は回生ブレーキまで使って曲がる。 4つの車輪に与える駆動力で曲がるという概念自体は、ランサーエボリューションがアクティブ・ヨーコントロールで実現したものだが、NSXではさらに制動までも織り込んだ。左に旋回する時、左前輪に回生ブレーキをかけながら、右後輪を駆動すれば、車両の自転運動を励起することができる。もちろん右前輪も自転運動に関与しているだろうが、左前輪を起点とした時、テコの長さが最大になるのは対角線上の右後輪だから、効率よく自転運動を起こすには、右後輪の駆動力をメインに使う。 従来のクルマでは前輪に舵角を与えて、タイヤの向きと車両の進行方向にずれを作っていた。これをスリップアングルと言うが、このスリップアングルによってクルマに自転運動を作り出していた。極めてパッシブな仕組みで、レスポンスは遅い。駆動力そのもので曲げればこのレスポンスは桁違いに早くなる。ハイブリッドシステムのメリットを上手く使って、車両運動を作るこのシステムをホンダは「スポーツ・ハイブリッドSH-AWD」と呼ぶ。 筆者はNSXのこのシステムを見て、米ロッキード・マーティン社の戦闘機F-16 ファイティング・ファルコンを思い出す。F-16は操縦者の操作を電気信号に置き換えて、機体制御を行う、いわゆるフライ・バイ・ワイヤが搭載された最初の機体だ。何故そんな制御が行われるようになったかと言えば、戦闘機に重要な機動性と安定性の高次元な両立が従来技術では難しくなったからだ。小さく速く回り込むための機体設計をすると、安定性が落ち、安定性を求めた機体設計をすれば、機動性が損なわれる。そこで機体そのものは機動性重視で設計しておいて、直進安定性はバイワイヤによるコンピューター制御に任せることにしたのだ。つまり真っ直ぐ飛ばないものをコンピューターで微細に制御して飛ばすのである。こうした考え方をControl Configured Vehicle(CCV)と言う。