“スーパーカーの新境地” 新型NSXの技術は何がすごいのか?
NSXは、ドライバーの操作をどのくらい曲がりたいかという情報として取得し、そのために最適な制御をクルマ側で行う。そういう意味ではクルマのCCVだと思う。 能力が桁違いなので、クルマの動き方そのものが変わる。それは従来のクルマに乗り慣れている人にとって違和感があるであろうことは、ホンダも承知である。自然であることを優先する限り、越えられない壁をホンダは越えて見せた。後はそういう手法をわれわれが受け入れられるかどうかである。大事なことはホンダは新しい世界を創出し、踏み出したということだ。良いか悪いか、あるいは好きか嫌いかはその後のことだ。 この一事を見ても、NSXはバベルの塔である。人がエンジニアリングによって物理の法則を自らコントロールできるかどうかを試す壮大な戦いである。その勇気に筆者は感動を覚える。だから今回の原稿はいつものようなビジネスニュースとしてではなく、技術への賛歌として書きたい。
高コスト素材で組み上げたシャシー
まずはシステム全体の美しいレイアウトを見てほしい。縦置きエンジンというレイアウトを活かし、初代NSXでは達成できなかった本格的な構造配置を実現した。エンジンはリヤ車軸より前へ、そして、バッテリーユニットは座席背面の低い位置へ、コントロールユニットは両座席の間に配置し、かつてのF-1の様にトランスミッションは後ろへ突き出す。
またV6ツインターボなればこそ、両サイドに巨大なインタークーラーを配置して、インテークまでのレイアウトに無理なく吸気冷却を行っている。ホンダの人には怒られるかもしれないが、ボディパネルのないカットモデルを見た時の方が美しさを感じた。
このレイアウトを受け止めるシャシーもまた振り切ったものだ。高コストをものともせず、アルミ押し出し材で組み上げた骨格に、適材適所に異種素材を組み合わせている。Bピラー部とフロントウィンドー下部、及び床板と座席背後の隔壁にはプレス加工アルミが、Aピラーからルーフに掛けてはプレス加工鋼板が使われているが、特に強度が求められる部分には三次元熱間曲げ焼き入れを施した超高張力鋼管を採用している。この超高張力鋼管はおそらく1300~1500Mpaという現在考えられる最も強度の高い鋼管であり、硬すぎて冷間の曲げ加工ができないので、加熱して造形するホットプレス加工が行われる。 しかも管なので、潰れない様に曲げるのは大変だ。曲げる前に内部に何かを充填しなくてはならない。それが砂なのか油なのかは、近々取材してみたいと思うが、いずれにしても大変な手間がかかる。しかもこの加熱を利用して焼き入れ処理まで行っている。