1館から全国上映へ。『侍タイムスリッパー』監督とキャストが語る、高みを目指した撮影現場
8月に池袋シネマ・ロサで封切られ、口コミで人気が広がり全国上映にまで拡大した自主映画、『侍タイムスリッパー』。幕末の侍が現代の時代劇撮影所にタイムスリップし、「斬られ役」として名を馳せていく物語を描いた痛快なチャンバラ活劇だ。 【画像】『侍タイムスリッパー』より たった1館の上映から全国に広がっていく様子は『カメラを止めるな!』の再来ともいわれるが、製作陣はどう受け止めているのだろう。 監督・脚本・撮影・編集などを務めた安田淳一、物語のキーパーソンである風見恭一郎役の冨家ノリマサ、ヒロイン・山本優子役の沙倉ゆうの、愛嬌のある役柄・錦京太郎を演じた田村ツトムが集結。和気あいあいとしながらも、脚本の力を信じ、皆が高みを目指したという撮影現場について、たっぷり語ってもらった。
幕末からタイムスリップした侍が「斬られ役」に。ノスタルジックな描写も多い『侍タイムスリッパー』
―1館のみの上映だったのが、いまでは全国251館以上での上映にまで拡大中と勢いは止まることを知りません。この快挙は映画製作に携わる人々に大きな夢を与えたと思いますが、皆さんはどのように受け止めていますか? 安田淳一監督(以下、安田):まだ実感がないですね。毎日いろんな業務に追われ続けているということもあり。 沙倉ゆうの(以下、沙倉):私もあんまり実感はないんですけど、テレビで取り上げられたときにまわりの人から見たよって言われると広がってるんだなと感じます。 田村ツトム(以下、田村):SNSでも皆さん感想をすごくたくさんあげてくれてますもんね。 冨家ノリマサ(以下、冨家):本当に嬉しいですよね。撮影中は上映されるかさえ決まっていなかったので、(主演の山口)馬木也と「これってどこで上映されるのかな」と話していたくらいなので。でもつくりながら「絶対面白い作品ができる」っていう手応えはあった。それがこれだけ広がるなんて、夢を見てるみたい。なるべくこの夢を長いこと見ていたいです。 安田:僕も「明日起きたら夢やったんちゃうかな」って思うときありますもん(笑)。 ―監督は劇場でお見送りもされていますが、そのときのお客さんの反応はいかがですか? 安田:皆さんすごく満足そうな顔で劇場を出られるので、「喜んでもらっているんだな」とそこで感じますね。リピーターのお客さんも結構いますし、以前1人で来られた方が親や家族を連れて来てくれるというのも多いですよ。 ―劇場が爆笑に包まれたり、自然と拍手が起きたりと、この映画はどこか懐かしい劇場体験を味わわせてくれます。親世代を連れて一緒に観たいという気持ちはわかりますね。 安田:客席丸ごとタイムスリップしている感じがありますよね。実際ノスタルジックな描写も多いですし。たとえば、剣心会を受けたときに「すべった」「落ちた」と言ったらいけないというくだりは昔のテレビで100回くらい見たことがありますが、それをこの後に及んでやってみたことが、いまのお客さんにとっては逆に新鮮に感じたのかもしれません。 ―この映画の広がりを見ると口コミのパワーをあらためて感じますよね。完全に観客を味方につけた作品かと思いますが、これほど観た人に愛される理由は何だと思いますか? 沙倉:キャラクターがそれぞれ可愛らしくて、愛着が持てるところが大きいと思いますね。だからみんな安心して感情を委ねられるし、応援できるのかなと。 安田:その最たるキャラクターが心配無用ノ介(錦京太郎)やね。それほど登場時間が長くないのに、ファンアートをつくってもらったりとすっかり愛されてる。それで演じる本人も調子に乗ってるけど(笑)。 田村:そんな目で見てたんですか!? いいでしょ調子に乗っても! 一堂:(笑) 冨家:監督がどの役にも愛を持ってカメラを向けていたから、それがお客さんにも伝わっているんだと思います。主役だろうが脇役だろうが画面に映る人にはちゃんと光を当てられているということを、僕も撮影中に感じていたので。そういう監督の愛情やこだわりが画面を通じて出ているんだなと。