1館から全国上映へ。『侍タイムスリッパー』監督とキャストが語る、高みを目指した撮影現場
物語のなかでも撮影現場でも助監督を担う
―助監督を演じた沙倉さんは、実際に現場の助監督もやられていたんですよね。 沙倉:そうなんです。でも普段はこじんまりとしか撮影してないから、本当の助監督がどんな仕事をするかわからなくて。監督に「助監督ってなにするんですか?」って聞いても、「監督を助けんねん」って言うだけで参考にならへんし(笑)。 安田:「監督を助ける」と書いて助監督やから(笑)。俺もやったことないけど。 沙倉:だからとりあえず言われた仕事を一生懸命頑張るのと、潤滑油として現場の雰囲気づくりは意識してやってました。 ―刀の整備もしていたという噂を聞いたんですが。 安田:立ち回りの撮影が終わったら、お母さんと2人で一時間くらいかけて整備してくれてたよね。 ―お母さんと!? 沙倉:そうです。立ち回りのシーンが多かったので100本くらい刀を借りていたんですけど、そんな数の整備を1人でできないから母に手伝ってもらって。刀の紐を結ぶとか一切したことないのに。 安田:お母さん手先がすごい器用やから、今後絶対使わないであろう技術をどんどん身につけてて(笑)。 冨家:たしかにゆうのちゃんは気がつくと何かしらの仕事をしていました。僕と馬木也はゆうのちゃんをエンジェルと呼んでいて、本当に癒しでしたね。僕と監督が喧々囂々とやっていると、ゆうのちゃんが収めてくれたり。 ―最重要ポジションじゃないですか。 安田:思えば結構失礼なことも言うてましたもんね。どちらの衣装を着るか揉めたときに、冨家さんがスタッフに「こっちの衣装の方がいいよね?」って聞いたんです。それに対して「冨家さんの立場でそんなん聞いたらスタッフも『はい』としか答えられへんから!」とか言うたり(笑)。 冨家:もらった役に愛情があるから、自分のなかで「風見はこうだ」とつくり込んじゃっているんですよ。一方で監督のなかにも風見のイメージがあるから、それを要求してくるんだけど「いや、風見は俺だから!」って(笑)。そこはもうお互いに譲らないんですよ。 安田:現場でも「安田くんは絶対に譲らないよな!」って憤慨してましたね。でもこんなことを言いつつ、冨家さんはすごく大人な対応をしてくれてました。普通の人やったら怒って帰ってますもん。一回冨家さんの目の前で「やりにくいなぁ!」って心の声が漏れたことがあったり。さすがにそのあとすぐ「……すいませんでした!!」って冷静になりましたけど(笑)。 冨家:普通そんな現場だと殺伐としていくんですけど、今回はまったくそうならなかったんです。それは「絶対良いものができる」とみんな確信があったから。同じ方向を見ていたからいろいろ言葉をぶつけあっても殺伐としないし、チームワークがとにかく良かったんです。学校のクラブ活動みたいで。 田村:まさに! 目標に向かってみんなが突き進んでいる感覚でしたよね。 冨家:「こうしねぇと勝てねぇだろうが」「いやこうした方が勝てる」みたいな感じで(笑)。 ―顧問(監督)と部長(冨家さん)が毎日言い争ってるような? 沙倉:そんな感じです(笑)。 ―山口馬木也さんはそういう衝突をどういう風に見ていたんですか? 安田:むしろ、一番撮影を止めてたのは馬木也さんです。 冨家:馬木也は顧問にバントをお願いされても「俺はそんなことしない!」というタイプ。彼も相当入れ込んでましたから。 安田:衣装部の方から「山口さん、ちょっと入れ込みすぎやね」って言われるくらい(笑)。でも嬉しいですよね。馬木也さんはメソッドをきっちりとしている方なので、本当に江戸時代からきた人の気持ちになってお芝居をされていました。風貌や話し方も江戸時代の人のそれだから、馬木也さんと仕事しているというより高坂新左衛門と仕事をしているようで。ドキュメンタリーのような感覚すら覚えていました。 ―山口さんの演技は本当に素晴らしかったです。笑えるけど、演技自体はコミカルすぎない絶妙なバランスで。 安田:じつは初日にもっとコミカルにやってほしいとお願いしたこともあって。でもやっぱり違うなと思って馬木也さんに任せて、僕はカメラマンに専念したんです。それをプレビューで見たら、可笑しいのに自然できめ細やかな演技をしてくれていて……本当に絶妙ですごかったです。俳優陣はみんな素晴らしかったです。