1館から全国上映へ。『侍タイムスリッパー』監督とキャストが語る、高みを目指した撮影現場
同じ方向を見ていたからこその衝突もあった。キャスティングと撮影現場について
―本作で驚いたのがみなさんの演技の巧さでした。キャスティングはどのように決めたのですか? 安田:毎回一緒にやってるゆうのちゃんは最初の段階から決まっていて。そして以前ご一緒してお芝居を知っている、紅壱子さん、福田善晴さん、井上肇さんも当て書きに近いかたちで脚本を書いていきました。 あとはオーディションをして、存在感があってお芝居ができる方にお願いしていきました。ただお願いした直後にコロナ禍で2年凍結してしまい……。2年経ってみんな出てくれるかなと連絡したら「待ってました!」と言ってくれて、嬉しかったですね。 沙倉:2年前にお願いしていた全員が出てくださったんですよ。 安田:台詞の多い役を演じる人に関しては、テレビやネットで探しました。馬木也さんと冨家さんは、BSの時代劇に出演されているのを見て良いなと思いオファーしたんです。そのときはまさかここまで素晴らしい俳優さんだと思いませんでしたが。 ―一緒にお仕事をして、はじめてそのすごさに気付いたと。 安田:2人とも本当に暑苦しくてね(笑)。「ここはサッと撮りましょうや」って言っているのになかなか納得してくれなかったり、2人とも僕とは違うこだわりがあるんですよね。でもその違いが正解でした。それぞれのこだわりが合わさってより良いものができたと思います。 ―冨家さんとは撮影中にいろいろディスカッションをされたとか。 安田:もちろんどちらも大人の態度でしたけど、ニュアンス的には喧嘩に近い(笑)。でもそれは作品を良くしようという俳優さんの気持ちがあるからですよね。インディーズ映画だからと軽く見ないで、物語や人物をどれだけ深められるかを真剣に考えてくれて。同じ方向を見ていたからこその衝突だったので、ボロクソに言ってたことも笑い話になっているし、いまでは人間としても大好きです。 冨家:脚本があまりに面白かったから、なんとかその良さを最大限引き出したいと燃えていたんです。脚本という二次元のものを、三次元にしていくイメージもそれぞれズレがありますから、そこでいろいろ議論させてもらいました。 安田:ありがたいことに脚本が面白いと言ってもらえて。映像化にあたり、間違っても脚本以下の作品にしてはいけないということは皆の共通認識としてありました。 演出家としては撮影中に止めてもらっても良いんですが、この映画は僕が出資者でもあるわけで。だから「ここの借り賃なんぼやと思ってんねん」とか考えながら「お願いやから早くしてっ!」って(笑)。でも楽しかったですわ。 田村:監督のこう撮りたいという気持ちと、役者のこう演じたいという気持ちがそれぞれあって、毎回衝突してたんですよね。でも毎日、監督がその日撮影したものを粗編集したVTRを役者陣に送ってくれるんです。それを見ると確かにこれはバトルした甲斐があるなと。戦ってれば戦っているほど良い絵になっていて。 ―撮影当日に粗編集をつくって送るんですか……!? 安田:お芝居している方からしたら、インディーズ監督がどんな画を撮るのか不安じゃないですか。ましてや僕は監督だけじゃなくカメラマンもやっていますし。僕はその不安を払拭したいから、毎晩「こんな映像になってるから安心してください」ということを伝えるためにも粗編集を送っていました。すべてのシーンというわけではないですが。