20周年を迎えた『3.1 フィリップ リム』。フィリップ・リムが改めて心に刻む「服はすべての人のため」
ブランドを背負うデザイナーとしての自覚や進化とは?
「服作りでいちばん楽しいのは最初のサンプルを修正しながら服を作っていくことだけど、デザイナーの仕事を始めた頃は、常に美しさだけを考えていました。具体的な形の美さだけを追い求めていたと思います。今でも、それはコレクションの中に残っています。コレクションを作りながら服作りのスキル、たとえば服をよりシャープに、より洗練され、より自信に満ちたものにする技術を磨いてきました。でも次第に僕自身の価値観、つまり、信じるものを大切にした服を作るようになりました。自分と社会の繋がりの中で、自分の声をどこに向けて発信するのか。政治、人権、環境、地域活動への参加など、自分が大切にしていること・信じていることと美しい服を作ることを両立させなければならないと、考えるようになったのです。だから僕は人として成長したと思います」 ブランドを維持していく中で最も苦しかったのは、パンデミックの時だった。ロックダウンで服が売れなくなり、ファッション界全体にビジネスの危機が広がった。フィリップも経営難となりブランドの閉鎖も考えたという。そして生き残るためのモチベーションを必死で探し求めた。 「難しいのは服作りのワクワク感を維持し続けることでした。正直なところ、この仕事は楽しいことだと自分に言い聞かせなければならない日々でしたが、その中で気づいたのが人と人との繋がりでした。このデザイン・チーム、友人、ビジネス ・パートナー、家族がいなければこの仕事はやっていけない。ファッションもエコシステムで成り立っていることがわかったのです。僕たちは互いに糧を与え合い、成長し生き残るための人と人との繋がりを必要としています。自分を取り巻くコミュニティとのつながりの大切さがわかるようになったのです。パンデミックの最初の 一年は僕の身近なコミュニティ、アジア系の人々が必要としている活動に積極的に参加し、問題点を発信することに力を注ぎました。そのおかげでAAPI (Asian American Pacific Islanders)のコミュニティとニューヨーク市のコミュニティとのつながりが強くなりました。自分が幸せになれることは何か?と考えた時、それはコミュニティ活動だったのです」 実際に彼はパンデミック中にアジア人への人種差別の抗議と支援を呼びかけるStopAsianhateと名づけたファンドを立ち上げ、700万ドルの寄付金を集めた。そしてアジア系のクリエーティブ仲間とSlaysian(スレイジアン=Slay (クールな)アジア人というグループを結成してアジア系のヒーローが活躍する House of Slayというアニメシリーズも立ち上げた。今、彼が取り組んでいる新しいプロジェクトがアジア系アメリカ人のメンタルヘルス(心の健康)を守る活動だ。 「アジア系の社会ではメンタルヘルスの事を隠す人が多く、ひとりで悩んで自殺する人も多い。AAPIコミュニティにおけるメンタルヘルスをめぐる問題や偏見をなくすための、サポートシステムを作らなければならないと思ったのです。こういった社会活動を行うことで服作りに取り組む姿勢が明確になると思うし、ちゃんとした人生を歩んでいるという自覚も生まれます」