「肉を食べる」が90歳現役医師の健康の秘訣 血糖値も気にせず「好きなものを食べる」
■食事は細かいことを気にせず「好きなものを食べる」 さて、これまで老年医学の立場から高齢者の食事についてみてきたが、ここから食事に対する私の見解に関して述べておきたい。私は、「好きなものを食べるのがいい」と考えている。 私自身は食べることがなにより大好きで、とくに肉が好きだ。それほど多くの量を食べるわけではなく、ステーキならせいぜい200g ぐらいだ。もともと肉が好きだったので、肉が健康にいいとわかって食べているわけではない。 食べる楽しみは、人間にとってすごく大事なものだ。私の性格上、「どの栄養素はどれくらい」「糖質は何g まで」「塩分は何g 以内」などと細かいことを言われたら食欲がなくなってしまう。日々、食事をおいしくとるために働き、食欲が自然にわいてくるようにしたいと思っている。無理して食べるようになることほど、悲しいことはない。だから、私は、細かいことは気にせず、食べたいものを食べている。ただ、食べすぎはよくないと思うので、腹八分目にするようにはしている。何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」ともいわれるので、食べすぎないように、ほどほどを心がけている。 私は糖尿病があるが、食事の糖質制限などはしておらず、血糖値もあまり気にしていない。基本的には、ここまで述べてきた理由によるところが大きいが、もう少し医学的な理由を紹介しておく。一つは、糖尿病や高血圧などの生活習慣病は75歳を境にその基準が緩くなる。75歳以上になると、心臓や血管の病気による死亡リスクが軽度になる。 もう一つは、糖尿病においては治療薬により血糖値を下げすぎることに起因する低血糖の問題も指摘されている。低血糖によりめまい、ふらつきなどの症状が起き、転倒につながるのだ。 国立長寿医療研究センターの調査では、高齢糖尿病患者さん300人を対象に転倒あり群94人、転倒なし群206人の転倒要因を検討した結果、転倒と有意な関連性がある項目として、年齢と低血糖が抽出された(*3)。転倒が高齢者にとっていかに危険かは別途述べるが、加齢とともに血糖値が高くなること自体は自然なことで、低血糖のほうが問題なのだ。 *1 柴田博編著:中高年の疾病と栄養 建帛社 1996 *2 熊谷修ほか:老年社会科学16:146-155 1995 *3 サブレ森田さゆりほか:日本転倒予防学会誌1:37-43 2014
※『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)から一部抜粋 ≪著者プロフィール≫ 折茂肇(おりも・はじめ) 公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長。1935年1月生まれ。東京大学医学部卒業後、86年東大医学部老年病学教室教授に就任。老年医学、とくにカルシウム代謝や骨粗鬆症を専門に研究と教育に携わり、日本老年医学会理事長(95~2001年)も務めた。東大退官後は、東京都老人医療センター院長や健康科学大学学長を務め、現在は医師として高齢者施設に週4日勤務する。
折茂肇