「捜査当局がグズグズしているから新たな被害が…」”地面師詐欺”被害者救済のために奮闘する”大物ヤメ検弁護士”の「苦悩」
こんなものは単純な詐欺
そう説明しながら、大鶴は事件発生当初の捜査当局の姿勢に対してこう憤った。 「そこで僕は言いました。『仮に僕が町田署の刑事課長だとして5人の捜査員を専従で当たらせてもらえたら、一週間で彼らを逮捕するよ』ってね。もちろんそう簡単に完全な裏付け捜査はできない。たとえば、通信のキャリア業者からメールを押さえ、連絡網を解明するなどという捜査はすぐには間に合いません。しかし、少なくとも詐欺や業務上横領の容疑で身柄を押さえることはできるし、そうしなければならない。僕は警察にそれを言ったんです。すると、彼らは『先生、そんなこと気楽に言うけど、検事が釈放するんですよ』と反論するのです。それは、わからなくはありません。今の検察の体質からすると、逮捕しても釈放しかねないですからね」 世田谷の元NTT寮を巡る詐欺事件において、地面師の北田や松田たちは、「津波が支払った代金の5億円の振込先を間違えただけだ」と嘯いてきた。が、とどのつまりネコババされた事実は動かない。したがって横領容疑で摘発すればいいだけの話である。こうした詐欺事件の場合、まず犯人の身柄を押さえ、詐取された金を取り戻すことが先決だからだ。 そのため顧問弁護士の大鶴は、町田警察署を管轄する東京地検立川支部の検事とも掛け合った。話に熱がこもる。 「こんなものは単純な詐欺なんです。被害のあった翌日に津波社長が、松田の携帯電話を町田署に持って行って『ここに詐欺の片鱗になるようなことがたくさん出てます。写真や画像も見てください』とも説明したんです。ところが担当の検事に会うと、詐欺の犯意がどうのこうのとおっしゃっていました。しかしそれはおかしい。仮に一万歩譲って、向こうに騙す犯意がないというなら、それはそれでいい。それなら業務上横領でやればいい。だから『業務上横領容疑で犯人を捕まえればいいじゃないか。罪名が詐欺だろうが業務上横領だろうが、量刑にはほとんど変わりはないですよ』とも言いました。そう言い返したら、検事は頷いた。それでも事件は動かなかったのです。担当検事が代わるまでね」