青森でイカ・サバ激減――日本の海の異変、ひたひたと迫る「魚種交替」と「温暖化」
「魚種交替」とは何か。地球では絶えず大気や海水が流動し、20年ぐらいの時間をかけて暖かくなったり、寒くなったりする。北西太平洋の日本近海が寒冷な時期は、南東太平洋の南米沖が温暖になっており、逆に日本近海が温暖な時期は南米沖の水温が下がる。これを周期的な変動というが、その時期に海で獲れる魚も太平洋全体の規模で変わってくる。 1950年から1970年ごろまでの20年間、日本近海は温暖期でスルメイカとカタクチイワシが豊富に獲れ、マイワシは低調だった。ところが、1970年からの20年間は日本近海が寒冷期となり、スルメイカとカタクチイワシの漁獲がおよそ半減し、逆にマイワシが急激に増えた。1990年からの20年では日本近海は温暖期になり、やはりマイワシが急減し、スルメイカやカタクチイワシが大幅に増えた。そして、近年再びこうした魚種交替が起きていると考えられ、それが八戸の漁獲量が減った要因の一つだという。
一方、人の活動で起こっているのが「地球温暖化」だ。IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)でも2022年2月、「人的影響による地球温暖化」が確定的と発表されたが、温暖化による水温上昇はとくに日本周辺海域では顕著に起きている。この約100年間で、三陸沖では0.82度、日本海中部では1.80度と世界平均(0.56度)よりも大幅に上がった。木所さんが言う。 「海水温が上がれば、魚は自ら生息に適する水温の場所をもとめて回遊します。たとえば、従来南のほうで獲れていたサワラが2000年以降、日本海で急激に増えた。これは水温の変化に合わせて魚が移動してきたからで、西日本の魚であるブリが北海道で急増したのも同じ現象です」 さらに、八戸のサバやイカは、水温変化の「局所的な影響」を大きく受けたという。サバは従来、太平洋北西部で千島列島に沿って北海道東部(道東)、そして東北・三陸、銚子のほうへと南下する回遊経路だった。だが、近年のサバの動きを見ると、道東や三陸の沖合にあまり近寄らず、離れて南下していると木所さんは言う。 「以前の八戸沖は親潮がぶつかり、サバの好漁場となっていました。しかし近年、道東沖にはマイワシの群れがあって、サバはそれを避けるようになりました。また、八戸沖には、日本海から津軽海峡を抜けて流出してくる津軽暖流があるのですが、いまはこの津軽暖流が強く張り出している。これがサバには暖かすぎるので、八戸沖を避けてしまう。結果的に、八戸の沖合ではサバが獲れなくなっているわけです」