青森でイカ・サバ激減――日本の海の異変、ひたひたと迫る「魚種交替」と「温暖化」
これまでとは異なる魚種交替
イカについての調査研究もある。水産白書によると、スルメイカは産卵海域である東シナ海での水温が2000年ごろから1度近く上昇したことで産卵や幼生の生育に適さず、幼生そのものが激減した。また、中国など外国漁船による大量の漁獲も、漁獲量減少につながっていると記されている。 魚種交替の周期的な変動で、この先イカやサバが戻ってくる可能性はもちろんある。だが、過去の20年周期にならえば、2010年から現在は日本近海が寒冷期に入っているところだが、実際には日本近海の水温はこれまでで最も高い水準となっている。近年はマイワシが増加傾向となり、スルメイカとカタクチイワシは減り続けている。海水温は温暖期が続いており、これまでとは異なる魚種交替が起きている。 「魚種交替という周期的な変動があるところに、温暖化も重なった。海が変わってしまったということなのでしょう」(木所さん)
食物連鎖で生態系全般に変化
そんな海洋環境の変化は八戸に限らず、至るところで起きていると北海道大学大学院地球環境科学研究院の藤井賢彦准教授は言う。 「たとえば、愛媛県と大分県の間にある豊後水道は、いま世界の研究者からも注目されています。なぜなら、北と南で生態が変わってしまっているからです。北側は以前のままですが、南側はサンゴが広がり、沖縄のような海になっているのです」
サンゴは昨今、和歌山沖や千葉の館山沖などでも北上が確認されている。明らかに温暖化の影響だが、こうした変化は二次的な影響まであると指摘する。 「たとえば西日本のサワラが東北で獲れだしていますが、サワラは他の魚を食べてしまいます。あるいは、九州や沖縄で獲れていたアイゴも北上しているのですが、このアイゴは水温が16度以上になると食欲が旺盛になり、昆布やわかめなど海藻も食べてしまう。これが広がると、いわゆる“磯焼け”という現象が加速する。すると、アワビやウニなどにも影響が出る。これが北海道や東北で広がると、おそらく水産業にとって大打撃になります。要は、食物連鎖で生態系全般に影響が出る可能性があるのです」 だが、そうは言っても、海水温の上昇を急に食い止めることは難しい。海の環境の変化がしばらく続くのであれば、漁業は別の方法に挑戦していくしかないと藤井准教授は言う。 「FAO(国連食糧農業機関)の統計では、世界の漁業の生産量は一貫して伸びています。ただし、実際には天然の漁業は1980年代で頭打ちとなり、それ以後増えているのはすべて養殖です。日本も資源管理をした上で、陸上養殖を含めた養殖も増やしていく必要があるのではないでしょうか」