産前産後どうだった? サポート役「ドゥーラ」を利用するメリットと注意点
分娩開始から9時間が経過したとき、「私には無理」という確信に近い思考がカトリーナ・ピッツを襲った。でも、また別の陣痛が全身を駆け抜けたとき、誰かが彼女の両手を掴んで視線を合わせ、いまの彼女に一番必要な言葉をかけたー「大丈夫」。彼女の息子のマイルスは、その直後に無事に生まれた。 【写真】40歳を過ぎてからママになった21人のセレブたち 心を落ち着かせるひと言で現在33歳の臨時教師を救ったのは、助産師でも夫のジェームズでもなく、ドゥーラのエリーだった。英国ブリストル在住のピッツ夫妻はネット上でエリーを見つけ、妊娠中のサポート計6時間、分娩時のオンコール対応、分娩後の振り返りセッションを含むパッケージに約1000ポンド(約20万円)を支払った。 カトリーナは、自分の分娩が「とてもいい経験」になったのはエリーのおかげだと思っている。実際、ひどい状況になる可能性はゼロじゃなかった。2022年4月、カトリーナが出産予定日の2週間前に破水して病院へ駆け込むと、分娩を予定していた病棟が人手不足で閉まっていた。 窓のない小さな分娩室で、カトリーナはパニックを起こしそうになっていた。「照明は眩しいわ、分娩時に使おうと思っていたもの(いきみ逃がしのボールなど)は全部(閉鎖中の)助産師の病棟にあるわで本当に参っていました。その時点で、もうダメな気がしていたくらいです」 ジェームズが電話で状況を説明すると、照明を和らげるためのプロジェクター、ボール、ヨガマット、エッセンシャルオイルを持ったエリーがやってきた。「あの瞬間、本当にホッとしたのを覚えています」とカトリーナ。「エリーはあの空間を一変させてくれました。彼女がいなかったら、どうなっていたか分かりません」
そもそもドゥーラってなにをする仕事?
「非医療的なバースワーカー」とも「現代のメアリー・ポピンズ」とも形容されるドゥーラの仕事は、妊娠中と分娩中(場合によっては産後も含む)の精神的・実用的なサポートを提供すること。 英国王立産科婦人科学会の副会長で顧問産科医のアスマ・カリル医師によると、ドゥーラは助産師や産科のチームに取って代わるのではなく、その人たちを補う存在。そのため、ドゥーラが助産行為や臨床業務を行ったり、医学的なアドバイスを提供したり、診断を下したりすることがあってはならない。 “ドゥーラ”は保護されていない用語なので、誰もが自分を“ドゥーラ”と呼べる。そのため、活動中のドゥーラの人数を示す正式なデータは存在しない。でも、非営利会員組織Doula UKによると、分娩にドゥーラのサポートを用いるケースは年々着実に増加しており(2020年:1460件→2022年:2047件)、ドゥーラの雇用を検討している家族からの問い合わせも同様に増えている。 もともと妊娠中のサポートに限られていたドゥーラの仕事内容も、時代に合わせて拡大している。グーグルで“ドゥーラ”を検索すると、生殖サイクル全体に関する結果が出てきて、妊活から閉経の症状管理まで幅広いサポートを行う非医療従事者の情報が表示される。 ドゥーラの台頭は、こうしたライフステージが女性の心に大きな影響を与えることや、国の医療システムに限界があることが認知されてきた証拠とも、国の規制を受けない職業で医療におけるジェンダーギャップを埋める試みとも言えるだろう。しかし、ドゥーラの需要の高まりは、歓迎すべきことなのだろうか?