産前産後どうだった? サポート役「ドゥーラ」を利用するメリットと注意点
ドゥーラはギャップを埋める存在
ドゥーラを利用したセレブにはハイディ・クルム、クリスティー・ターリントン、ニコール・キッドマンなどがいて、まるでメットガラの招待客リストを見ているよう。でも、ドゥーラを雇うのは、さほど“いまっぽい”ことじゃない。ブランディング・コンサルタントと違い、ドゥーラという職業は何世紀も前から存在している。 近年リバイバルしている“ドゥーラ”は、“女性の使用人”を意味する古代ギリシャ語に由来する言葉で、1970年代のフェミニズムの第2波と自然分娩運動に乗じて普及した。米国の人類学者ダナ・ラファエル博士は1973年、著書『The Tender Gift: Breastfeeding』の中で“ドゥーラ”という言葉を生み出し、欧米以外の地域には「母親を育てる」伝統が強く残っていると指摘した。 「比較的最近まで、分娩中の女性の世話をするのは必ずしも助産師ではありませんでした」と話すのは、Doula UKのスポークスパーソンのエリー・ダンクリー氏。「子どもが6人もいる近所のサンドラが家に様子を見に来たりしていたんです」。ダンクリー氏によると、出産が医療の一部と見なされる欧米社会では、この「母親を育てる」という概念がノーマライズされていない。「でも、ドゥーラになら、そのギャップが埋められます」 ドゥーラ人気の高まりには、パストラルケアとメディカルケアの間の格差が広がっているという認識の拡大も関係している。リソース不足のNHS(英国民保健サービス)では女性に適切な医療を施せないという現実を無視するのは、もはや不可能。 英国王立助産師会によると、NHSではフルタイムの助産師が2500名も不足している。また、NHSトラストのノッティンガム大学病院およびシュルーズベリー&テルフォード大学のマタニティ事件(病院側の調査・ケア不足で多数の母子が出産中または直後に死亡していることが発覚した事件)は、女性の意見を聞かない文化の悲惨な現状を浮き彫りにした。 NHSのマタニティサービスで20年間働いてきた産前産後を専門とする心理学者のジュリアン・ブータレブ博士によると、ドゥーラの需要の急激な高まりは、こうした事件に直結している。「女性たちは、国の医療システムがいつも自分たちのニーズを満たしてくれるわけではないことに気付きつつあります。お金に余裕がある人は、自分に必要なサポートを自分で手配するようになっていますね」 かつてドゥーラは富裕層の特権と見なされていたけれど、ダンクリー氏いわく最近は費用を分散するための支払プランを用意しているドゥーラも多い。Doula UKも経済的な困難に直面している人々を支えるために補助金の提供を行っている。また、有色人種向けドゥーラ育成サービスAbuela Doulasの設立者で、ドゥーラ歴19年のマーズ・ロード氏によると、ドゥーラは長年、中産階級の白人女性の特権と思われていた。その結果として黒人のドゥーラが非常に少なかったのも、彼女が自分でドゥーラの育成を始めた理由の1つ。 それから20年が経ったいまでも、不平等なマタニティケアの根底には、組織的な人種差別が蔓延した医療システムがある。黒人女性は白人女性に比べて妊娠中と分娩中に死亡する確率が4倍も高いという恐ろしい統計があるほどだ。ロード氏は、黒人や褐色人種の妊婦さんが病院で安心して過ごせるよう、黒人のドゥーラには支援者と証人の両方の役割を果たしてほしいと考えている。