「地震予知と注意呼びかけは違う」千葉県東方沖のスロースリップ現象
── そのスロースリップが千葉県東方沖で発生していたということですが、地震活動の活発化とはどのような関係があるのですか? 平田 千葉県東方沖では、これまでに確認できているだけでも1983年、1990年、1996年、2002年、2007年、2011年、2014年と7回のスロースリップがあり、今回が8回目です。そして、そのたびに今回のような群発地震が発生していることも分かっていました。プレートがゆっくりずれ動いたことで、周辺にかかっている力の状態が変わってしまうので、たくさんの地震が発生するのだと考えられます。スロースリップの余震と言ってもいいでしょう。過去のスロースリップの時は、だいたいですが数週間程度、群発地震が続きました。 ── ということは、今回はこの群発地震について警戒するように、ということだったんですか。 平田 その通りです。過去のスロースリップの時に発生した群発地震の中には、千葉県で最大震度5弱になった地震もありました。震度5弱というと、食器や本が棚から落ちたり、建物にひびが入るなどの被害が出る可能性がある揺れです。過去に起きたことはまた同じようなことが起きる可能性が高い。そういう意味で警戒を呼び掛けました。いわゆる地震予知とは違います。大きな地震が発生した後に余震について注意を呼びかけますが、それと似ていますね。
── スロースリップは千葉県東方沖に特有の珍しい現象なのですか。 平田 いいえ。南海トラフ巨大地震の発生が危惧されている東海~九州のプレートの境目の深い場所でも発生しています。期間が数日から数週間の「短期的ゆっくり滑り」と数年間の「長期的ゆっくり滑り」がありますが、短期的ゆっくり滑りは毎月のように起きています。ただ、南海トラフ沿いで発生する短期的ゆっくり滑りは、千葉県東方沖のような群発地震が伴いません。このため、短期的ゆっくり滑りが発生しただけでは特別に注意喚起するようなことはしていません。 ── 今回のスロースリップについて、「1923年の大正関東地震(関東大震災)のような大地震につながるのでは」と不安に思う人もいるかもしれません。気象庁は昨年11月、それまでの東海地震予知情報に代わり、南海トラフ巨大地震が発生する可能性が普段より高まっている時に南海トラフ地震に関する情報を発表する態勢に変わりましたが、仮に関東地方でも同じような発表態勢があったら、今回は情報発表に至りましたか? 平田 いいえ、その段階には至っていません。大正関東地震や1703年の元禄関東地震は、相模トラフのプレート間地震だったと考えられています。先ほど話しましたが、陸と海のプレートの境目でも、ぴったりくっついている領域とそうでない領域があります。急激に動いて巨大地震を引き起こすのはぴったりとくっついている部分と考えられ、これは現在、スロースリップが起きている場所よりも浅いところ、方角でいうともっと南に位置します。スロースリップが起きている場所はどこなのか、ぴったりくっついている領域に移動していないかなどを、気象庁や防災科学技術研究所など各研究機関が注意深く監視していますが、現時点では相模トラフの巨大地震に直接結びつくような変化は観測されていないと言えると思います。 ── ひとまずは安心ということですね。 平田 安心はできません。スロースリップが起きているということは、少しずつプレートの沈み込みは続いていて、次の地震の準備が進んでいるということでもあります。何度も言っているように、現在の地震学では、確度の高い地震予知はできませんので、いつ起きてもいいように備える必要があります。また、18日にも大阪府北部で最大震度6弱の地震が発生したように、日本中どこでも大きな揺れに見舞われる可能性があります。今回の千葉県東方沖のスロースリップなどを、もう一度地震に対する備えを見直すきっかけにしてほしいと思います。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)