そこには「バラ色の未来」があるはずだった…「憧れのニュータウン」が老人ばかりの斜陽の街になった根本原因
■復活の力になるのはライドシェアと大学 住民の高齢化そのものは、明確な解決策は「ない」と言っていいでしょう。 高齢者はそれまで住んでいた家を離れたがらないものです。それを嘆くより、いま住んでいる人たちのQOL(生活の質)を高めることを考えるべきです。ニュータウンの中でも駐車場を備えた戸建て分譲住宅が中心で、駅前の商業施設も広い駐車場を備えてモータリゼーションの流れを捉えることができた地域、たとえば京王線の南大沢エリアなどでは、駅前も活気があります。大変なのは初期に建てられた団地など設計の古い集合住宅です。 ニュータウンを復活させるためには、0~14歳の子供を持つ子育て世代と、75歳以上で1人で移動できない高齢者のいる家庭にとってやさしい街に変えなくてはいけません。現状では高齢者や幼児の移動手段がないことが最大の問題なので、乳幼児を抱えた親やお年寄りが気軽に使えて便利な移動手段を提供する必要があります。方法としてはウーバーのようなライドシェアの普及以外に、選択肢がありません。 ニュータウンでは70年代以前に集合住宅に入居した人の多くが車を持っていない一方、80年代以降に戸建て住宅に入居した人たちの大半が自家用車を持っています。サラリーマン家庭が多いので、その多くが平日は使用する時間が限られています。これをライドシェアに活用すればいいのです。 運転を担うのは日中に家にいる専業主婦、近くの大学に通う学生、農家や商業など自営業の方々など。車を持つ人、運転できる人が地元の高齢者や乳幼児世帯をサポートする。エリア内で移動サービスの地産地消が実現できます。 ニュータウン活性化のもうひとつの方法は、地域の大学にもっと街に参加してもらうこと。多くのニュータウンの近隣には大学があります。千里ニュータウンには大阪大学や関西大学が、多摩ニュータウンには東京都立大学や明治大学、青山学院大学など多数の大学が誘致されています。私の所属する東京科学大学すずかけ台キャンパスや国府台キャンパスも郊外住宅エリアにあります。ところが郊外には大学生が消費する店が駅前にすら少なく、キャンパス近くでアルバイトも探せないといった状況のまま放置されています。 ニュータウンの活性化は、ぜひ地元にある大学と共同で構想を創るべきです。20歳前後の若者たち数万人が子育てや高齢者のサポートをする起業をぜひしてほしい。アメリカのライドシェアビジネスには、大学生ベンチャーから発展したものもあります。街が一気に活気づくでしょう。 ライドシェアや無人タクシーは、ニュータウン復活の大きな力になるはずですが、現状、政治がその導入を妨げています。その意味でニュータウンの凋落は、数十年先の街のあり方を考えなかった行政と、住民に真に必要なサービスの提供を拒んでいる政治に起因していると言えるかもしれません。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月1日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 柳瀬 博一(やなせ・ひろいち) 東京科学大学リベラルアーツ研究教育院 教授 1964年、静岡県浜松市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社。「日経ビジネス」記者、単行本編集、「日経ビジネスオンライン」プロデューサーを務める。2018年より東京工業大学(現・東京科学大学)リベラルアーツ研究教育院教授。『国道16号線――「日本」を創った道』(新潮社)で手島精一記念研究賞を受賞。他の著書に『親父の納棺』(幻冬舎)、『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』(小林弘人共著、晶文社)、『「奇跡の自然」の守りかた』(岸由二共著、ちくまプリマ―新書)、『混ぜる教育』(崎谷実穂共著、日経BP社)がある。 ----------
東京科学大学リベラルアーツ研究教育院 教授 柳瀬 博一 構成=久保田正志 写真=時事通信フォト 図版作成=大橋昭一