<エネルギーの自衛に走るドイツ>ウクライナ戦争で目覚めた国民、日本も国民的な議論を
ドイツは深刻なエネルギー危機に直面し、自給率の向上策を推進している。日本も現実的な最適解を見つけるため、国民的な議論を喚起すべきだ。「Wedge」2024年9月号に掲載されている「エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう」記事の内容を一部、限定公開いたします。 2022年2月のロシアのウクライナ侵攻は、ロシアにエネルギー輸入を大きく依存していたドイツに冷水を浴びせた。ドイツ連邦系統規制庁によると21年にドイツが輸入した天然ガスのうち、約52%がロシアから輸入されていた。だがロシアは22年8月に、海底パイプライン・ノルドストリーム1を通じたドイツなど西欧諸国への天然ガスの供給を停止した。 【図表】国民との議論の末に再エネに舵を切ったドイツ 1973年以来、ソ連から天然ガスの供給を受け、「ロシア人がエネルギーを政治的武器として使うことはあり得ない」と信じてきたドイツの先入観は打ち砕かれた。 天然ガスの供給停止は、ドイツ社会を混乱に陥れた。天然ガスの卸売価格は、2022年8月に一時1メガワット時(MWh)あたり300ユーロを超えた。ロシア・ウクライナ戦争前の約7倍だ。天然ガス卸売価格の高騰は、電力の卸売価格にも飛び火した。22年秋、ミュンヘンの地域エネルギー供給会社SWMは、顧客に「23年1月1日から、電力と天然ガスの価格をこれまでの2倍に引き上げる」と通告した。これはSWMから天然ガスと電力を買っていた顧客の年間料金が、2661ユーロ(45万2370円・1ユーロ=170円換算)から、5360ユーロ(91万1200円)に増えることを意味した。 政府が23年1月から、補助金を投じて激変緩和措置を実施したため、実際には天然ガスや電力料金の値上げ幅は2倍にならなかった。それでも22年秋には、多くの市民が「料金を払えなくなり、天然ガスや電力を止められるのではないか」という強い不安を抱いた。 22年には各地の消費者センターで、天然ガス・電力料金に関する市民の問い合わせが急増した。ベルリンの消費者センターでエネルギー問題を担当していた相談員は、「天然ガス代の毎月の事前支払額を突然100ユーロ(1万7000円)から600ユーロ(10万2000円)に引き上げられた人もいた」と語る。10代の息子を持つシングルマザーは、「これまでは息子が時々友達と外食したり旅行に行ったりできるように小遣いを与えていたが、天然ガス料金が引き上げられたら、小遣いも与えられない」と言い、窓口で泣き出した。 産業界への打撃も大きかった。化学や金属加工、ガラス、セメント、製紙メーカーの中には生産量を減らしたり、生産を停止したりする企業が現れた。バイエルン州のある浴槽メーカーは、電力会社から「料金を12.7倍に引き上げる」と通告された。デュッセルドルフに本社を持つ製紙会社は、天然ガス価格の高騰が原因で倒産した。