デジタル時代を築いた巨人、テッド・ネルソンの一風変わった人物像
■ 服部桂 元ASAHIパソコン副編集長 実は、私とテッド・ネルソンさんとの付き合いは、ここにいる皆さんより長いんですよ。 【写真】ハイパーテキストの父と呼ばれるテッド・ネルソン氏 テッド・ネルソンさんって、かっこいいですよね。 お父様はラルフ・ネルソンという有名な映画監督で、お母様は女優さんなんです。 映画スターのような経歴ですが、ご両親は離婚されていて、その後、コンピューターサイエンスや社会学を学んでいるうちに、ハイパーテキストの概念にたどり着きました。 テッド・ネルソンといえば、ハイパーテキストという概念を最初に提唱した人です。 私がテッド・ネルソンさんに初めて会ったのは、1980年代に米国のコンピューター会議に行った時になります。 必ず最初に手を上げて、わけの分からない質問をするヒッピーみたいな人がいて、「誰なんですか?」って聞いたら、「テッド・ネルソンっていう有名な人だよ」と教えられました。 後で調べてみたら、本当にすごい人だと知って驚いたのです。彼は、自分で書いた本を配っていました。 彼が提唱したハイパーテキストというのは、テキストがハイパー、つまり文書が相互にリンクされているということです。 インターネットでいうリンクですね。
■ ハイパーテキストが変えたコンピューター 例えば、この文章は誰が書いたとか、注釈をつけることはありますが、普通は言葉の由来までは分かりません。 そんな彼がコンピューターに出会って、「これだ!」と思ったそうです。本もたくさん読みすぎて、どの話がどこに出ていたのか分からなくなったこともあったとか。 そこで、「コンピューターでやれば、整理できるんじゃないか?」と1960年代に考えたそうです。 文章の中の言葉が相互にリンクしている状態を、コンピューターなら簡単に実現できるかもしれない。 そう思って、ハイパーテキストの概念を考え出したと言っています。 1960年代から70年代にかけて、米国のブラウン大学でコンピューターを使った文章のリンクシステムを研究していました。 当時のコンピューターは、ただの計算機です。 人間の知能を増幅するというより、大きな電卓のようなものでした。 ところが、ネルソンさんは、「コンピューターで言葉を処理したり、リンクしたりしたら、すごく便利なんじゃないか?」と、いち早く気づいたのです。 彼が本当に先駆者だったということは、彼の著書や慶應大学で博士号を取った時の論文を見れば分かります。