話題の「未来予測系」ビジネス書10冊 先読む力と教養が身に付く
今回紹介するのは、未来予測系のビジネス書です。予測した内容が100%現実になるわけではありませんが、やはり、各界の専門家が描く未来予測は、その方向に向かうことが多いと思います。 【関連画像】 例えば、2012年発刊の『2100年の科学ライフ』(NHK出版) で、著者のミチオ・カクさんが、「21世紀半ばには現実とバーチャルが混ぜ合わされ、2100年にはコンピュータを心で制御できるようになる」と言っていましたが、これはまさに実現の可能性を感じさせる予測です。さまざまな角度からの未来予測について知っておくと、大枠で未来の方向性をつかむ視点が鍛えられます。 また、未来予測の視点を持つメリットは、「今後はこういうビジネスに強い企業が伸びる」「この方向性で自社が強いリソースは何だろう?」と、ビジネスに生かせる思考が身に付くこと。それに、未来のことを考えるのは、純粋にワクワクするし、楽しいし、話のネタにもなりますよね。そういう意味で、未来予測本は僕も好きなジャンルです。今回は、今注目している未来予測系のビジネス書を10冊選びました。ビギナー向けから順番に紹介します。 ●1.『2040年の未来予測』 成毛眞著、日経BP 著者は、元日本マイクロソフト社長の成毛眞さん。あらゆるデータを基に「バーチャルが日常になった世界」「6Gが可能にすること」など、「2040年」という近未来を予測しています。 この本は、ビジネスパーソンが読む未来予測系の入門書として最適です。なぜかというと、成毛さんは元日本マイクロソフトの社長ですからテクノロジーに強く、さらに投資家でもあるので、この本にはビジネス感覚がきっちり入っています。近い将来に何が起きるのか、シミュレーションすることもでき、本書を読むことで、「何に関わるセクターが伸びてくるのか」「どういった企業が伸びるのか」という投資家目線も身に付けられると思います。 ●2.『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』 落合陽一著、SBクリエイティブ 最近のトレンドである地政学、テクノロジー、人口推移などのデータから2030年の未来を予測した1冊。「テクノロジーの未来年表」「100年後の地球環境の4つのシナリオ」など、さまざまな分野で何が起きるかを予測しています。 こちらは「2030年」ということで、1冊目に紹介した『2040年の未来予測』よりもさらに近い未来を予測した内容です。新型コロナウイルスの流行やロシアによるウクライナ侵攻など、世界では予期せぬことが起こりがちですが、その中でも、将来の推計人口については、ほぼ予測した通りになるといわれています。 この本は、人口予測はもちろん、地政学、テクノロジーの観点からもバランスの取れた内容です。これから何が起きるか押さえておくには、いい1冊です。 ●3.『拡張の世紀―テクノロジーによる破壊と創造』 ブレット・キング著、NTTデータオープンイノベーション事業創発室解説、上野博訳、東洋経済新報社 著者のブレット・キングは「Tech界のグル」と呼ばれ、『フィナンシャルブランド』で金融サービスにおける世界1位のインフルエンサーにも選ばれた人物。そんな彼が、寿命延長や空飛ぶクルマなどを取り上げて、テクノロジーの進化が世界をどう変えていくかを予測しています。 僕は、この本のキーワードは「拡張」だと思っています。この本の予測の中には、欠損した体の神経に接続可能な義肢についての話が登場します。通常よりも強力な機能を持つ義肢にすると、まるでサイボーグのようになれる可能性も生まれるという文脈で紹介されています。他にも、例えば、現在の補聴器は単に聴力を拡張しているだけですが、将来的には会話を録音したり、録音音声をデータベース化したりできるようになるかもしれません。最初はハンディキャップを補うために考えられたものが拡張のツールとなり、未来をつくる──まさに「拡張の世紀」です。 これから高齢化が進み、体の機能を補うニーズは高まるはずです。このトレンドは知っておいたほうがいいと思いますよ。 ●4.『サイボーグ時代 リアルとネットが融合する世界でやりたいことを実現する人生の戦略』 吉藤オリィ著、きずな出版 著者の吉藤オリィさんは、世界最大の科学大会ISEFでGrand Award 3rdを受賞し、米『Forbes』が選ぶアジアを代表する30歳未満の30人「30 under 30 2016」などに選ばれたロボット界の若きエース。テクノロジーを使って、人間の「できる」を拡張している人、と言ってもいいでしょう。 自身が不登校や療養を経験したことから、「人類の孤独を解消する」をミッションにしているロボットコミュニケーターとして活動し、重度障害などで外出できない人が、分身ロボット「OriHime」を使って接客サービスを行うカフェや意思伝達装置「OriHime eye」などを手がけています。 本書では、この先、リアルとネットが融合し、人間とテクノロジーがどう発展していくかが書かれています。 ●5.『LIFE SPAN 老いなき世界』 デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント著、梶山あゆみ訳、東洋経済新報社 著者はハーバード大学医学大学院教授で、老化と若返りの第一人者。その著者が「なぜ老化という現象が生物に備わったのか」を説明し、人類は「老いない体を手に入れられる」と予見しています。 今は「人生100年時代」といわれますが、人間は理論上は120歳まで生きられるそうです。そんなにも寿命が延びるのであれば、できれば健康で、若くいたいと思いますよね。この本には、なぜ老化が起きるのか、どのように老化を「治療」するのかについて書かれています。 人が「老化する生活習慣」を避ければ、食などのライフスタイルは様変わりするでしょう。そして、年を重ねると老化するという「年齢の壁」が消えたとき、人はどう生きていくのか。本書のような生命科学系の本を読むと、未来のサービスやトレンドを予測する際にも役立ちます。 ●6.『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』 田中宏隆、岡田亜希子、瀬川明秀著、外村仁監修、日経BP 2050年までに「フードテック」市場は世界で700兆円規模になるといわれています。「植物性代替肉」や「ゴーストキッチン」など、フードテックの世界で今何が起きているのかを俯瞰(ふかん)できる1冊です。 フードテックはとてつもない巨大市場ですが、本書では、そこに参入している最先端の企業はどんなことをしているのか、食がどのようにテクノロジーと結びついているのかが解説されています。いま注目されている植物性代替肉や培養肉についてや、食業界や専門家のインタビューまで、とにかく紹介されている事例の数が多いのも特長です。 これから食の世界で何が起きるのかを予見するのに役立つ内容です。フードテックの広がりや可能性については、食に直接関係する業界の人に限らず、ビジネスパーソンとして知っておいて損はないと思います。 ●7.『米国防総省・人口統計コンサルタントの 人類超長期予測 80億人の地球は、人口減少の未来に向かうのか』 ジェニファー・D・シュバ著、栗木さつき訳、ダイヤモンド社 米国防総省は、人口動態のデータによって安全保障や気候変動、移民問題などさまざまな未来を予測しているのだそうです。この本は、同省の人口統計コンサルタントだった著者が、人口動態の観点から、日本やアメリカ、中国、インドなど世界各国の未来がどうなるのかについて予測した1冊です。 2022年に地球の人口は80億人を突破しましたが、世界の貧富の格差や高齢化、食糧問題はどうなっていくのでしょう。人口動態によって、世界の政治、経済、社会が変化していく未来について解説しています。 世界の人口が増え続けるなか、日本は少子高齢化といわれて久しいですよね。本書では、そんな日本の行く末がどうなるのかについても詳しく書かれています。 ●8.『2050年 世界人口大減少』 ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン著、河合雅司解説、倉田幸信訳、文藝春秋 名門調査会社・イプソスのグローバルCEOらが、世界各国でフィールドワークを行い、そのデータや証言を基に書かれた1冊です。7冊目で紹介した『人類超長期予測』とは反対の意見で、こちらの本では、「2050年には世界の人口が減少に転じ、その後は二度と増えることはない」と警告しています。 人口が減少するなかでの米中の覇権争い、世界経済の行方、SDGs、そして日本が取るべき一手についても書かれています。 世界の人口は増えるのか? それとも減少に向かうのか? 思考を深めるためにもおすすめなのは、主張の異なるどちらの本も読んでみること。どちらのシナリオも知っておくのが大事だと思います。 ●9. 『2050年の世界 見えない未来の考え方』 ヘイミシュ・マクレイ著、遠藤真美訳、日本経済新聞出版 著者は、英インディペンデント紙の経済コメンテーターであり、ガーディアン紙の金融面エディターを務めたこともある、ヘイミシュ・マクレイ氏。 本書で書かれているのは、うわついた未来予測ではなく、グローバル目線の詳細な地域分析。2050年までに、アメリカやヨーロッパ、中国、インド、ロシア、中東諸国、東南アジア、アフリカがどうなるか、現状の分析と課題をもとに論じています。 注目したいのは、変化の時代を読み解くための著者独自の目線。著者が「予測を一定の範囲にとどめるアンカー」と呼ぶ2つの要因、「物理の法則は変わらない」「わたしたちの心の核にある望みと恐れはほとんど変わらない」を押さえれば、未来予測は思っているよりグッとうまくいくはずです。 また、「国がある場所と近隣諸国は変えられない」という指摘もその通りで、本書の詳細な地域分析と併せて考えれば、世界情勢、世界経済を読み解くのは、比較的楽になると思います。 この本の魅力は、マクロの分析だけでなく、ミクロのビジネスチャンスにも触れている点。これから大きくなる都市や、伸びる産業、テクノロジー、エネルギーの方向性が見えれば、これから世界で稼ぐ方法も見えてくるはずです。グローバル化が、「モノの移動からアイデアと資金の移動」へと方向転換するという点は、ぜひ押さえておきたいですね。 ●10. 『自由と進化―コンストラクタル法則による自然・社会・科学の階層制』 エイドリアン・ベジャン著、柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店 著者のエイドリアン・ベジャンは、「コンストラクタル法則」という物理法則を提唱して、米国版のノーベル賞ともいわれるベンジャミン・フランクリン・メダルを受賞した人物です。最初の著書の『流れとかたち』(紀伊國屋書店)も面白いのですが、こちらはさらにパワーアップした内容となっています。 「コンストラクタル法則」とは、簡単にいうと「すべてはよりよく流れるかたちに進化する」という法則のこと。つまり、エネルギーを瞬時に分散できる形があり、空港の搭乗口や幹線道路なども人の流れを分散できるデザインに進化している、と著者は言います。さらにこの本では、「変化する自由があれば、すべてはよい方向に進化する」とも…。 日本にいるとなかなかそう思えないかもしれませんが、例えば日本国内でも移動の自由がない過疎地よりも、交通アクセスのよい平地のほうが栄えていますよね。この先の世界は、そうした移動の自由度によって、豊かさすら左右されるという説が面白く、「そういう見方があるのか」と刺激になる1冊です。 取材・文/三浦香代子 編集協力/山崎綾 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部)