「道悪」「京都適性」の差が如実に表れた春のグランプリ。ブローザホーン&菅原明良騎手の”人馬一体”が悲願成就【宝塚記念】
会心の勝利に喜び爆発「余裕があったし、強かった」
レースはルージュエヴァイユ(牝5歳/美浦・黒岩陽一厩舎)の積極的な逃げで始まり、そこにベラジオオペラと、ゲートで後手を踏んだプラダリアが押しながら前へ行き、3頭が雁行体勢で先行する形になる。ジャスティンパレスはソールオリエンスと並ぶように中団の7番手付近を進み、4番人気のローシャムパークがその後ろの9番手、ドウデュースとブローザホーンはさらにその後ろの10~11番手で追走した。 1000mの通過ラップは1分01秒0。渋った馬場状態を考えても、決して速いペースとはいえず、多くの騎手が可能性を意識して無理な競馬を仕掛けなかった結果、ペースが落ち着いたものと考えられた。 レースは第3コーナー付近から動きが出て、引っ張り切れない手応えのプラダリアが先頭に立ち、後続も状態の悪い内を避けながら、馬場の外目を通って進出を開始。馬群は大きく横に広がりながら直線へと向いた。 まず馬場の中央へ持ち出したプラダリアがいち早く仕掛けて先頭に立つが、そこへベラジオオペラが馬体を併せにいき、熾烈な先頭争いを繰り広げる。その外から道悪得意のソールオリエンスが中団から脚を伸ばすと、さらにその外から前半は後方で息を潜めていたブローザホーンが爆発的な末脚で急襲。一気に前を飲み込むと、ソールオリエンスに2馬身差を付けて見事に初のGⅠタイトルを手に入れた。 レース前から「他の馬が気にするぶん有利だと思う」と、ブローザホーンの道悪適性の高さに自信を持っていた菅原明良騎手は、会心の勝利に喜びを抑えられないという表情で、こう振り返る。 「重馬場は苦にしないタイプなので、いつもと変わらず走ってくれましたし、向正面で少し位置を上げて、いいところで競馬ができたと思います。4コーナーを回ってくる時も待てるぐらい余裕があったし、強かったですね。馬に感謝しかないです。今年中に(GⅠを)勝ちたいという気持ちは強かったので、勝ててホッとしています」 同騎手は2019年のデビューから31勝を挙げて新人騎手特別賞、民放競馬記者クラブ賞を受賞。21年以降は年間70勝オーバーの優れた成績を残してきた若武者に、今回ようやく大きなスポットライトが当たったという印象だ。騎乗馬の質は年々上がってきており、これからの大ブレイクが待たれるジョッキーのひとりである。 ブローザホーンは今年1月の日経新春杯(GⅡ、京都・芝2400m)で重賞初勝利を挙げると、春の天皇賞(GⅠ、京都・芝3200m)で2着に食い込んでトップホースの1頭に数えられるようになった遅咲きの上り馬である。馬体重は420キロ台と牡馬としては小柄だが、タフな馬場でバトルする欧州の強豪にも450キロを切っていそうな小型馬が多いように、そうした特質を内包している印象だ。今回は道悪という得意の条件を活かし切ったが、この鋭い差し脚を見ると良馬場でも十分勝負になるのではないかと思える。秋に大きな楽しみを持たせる新星の誕生を喜びたい。