大きく行動しなければ自分を変えられないと思っていた――鞘師里保がニューヨークで過ごした日々 #今つらいあなたへ
一歩ずつ歩くよ
活動休止中は、「絶対に表に出ない」と決めていた、と鞘師は言う。が、時間が経ち、落ち着きを取り戻すと、仲間たちの活躍が楽しそうに見えてきたという。そこへ、復帰の話が舞い込んだ。「もう日本から出ないでほしい」と、昔から応援してくれていた人に言われたことも大きかった。 「そのタイミングは運命かな、と当時は思いました。戻る、戻らないという選択肢がありましたが、もしやらないと決めたら、後から『やり残したのでは』と思って生きていくことになるかも、と考えたりもして。だったら、もう一回チャレンジしてみてもいい。……なんだかんだ、やっぱり好きなんだと思います。ライブをしたり、作品を届けたりすることで、誰かが生きる日常の中に何かを添えられる仕事だと思うので。それって、すごく幸せなこと。だからいつも持ちこたえるときに、ファンの方の顔が浮かびます」 持ちこたえる、という表現。そうなのだ。覚悟して戻った今も、鞘師にとって仕事は決して楽なものではない。 「仕事は、ずっと大変。毎日戦いに出てるような気持ちですね。ラジオに行っても、うまくしゃべれるかなとか、楽しい番組にできてるかなとか、全部、気になっちゃう。焦ると失敗するタイプなので、いつも一回引くようにしてます。『一歩ずつ歩くよ』と言い聞かせて。人と関わるときも、すぐに仲よくなろうとか、もう全然しない。焦らないことが、自分にとってのテーマです」
多くの人が鞘師の才能と実績を認めているのに、なぜそんなに慎重なのか。自己評価が低いのでは、と言うと、鞘師は照れ笑いを見せた。 「マネージャーさんからも言われます。自分でも、わからない。こうやって言葉にするのも恥ずかしいのですが、たぶん完璧主義なところがあって、それは過大に自分に期待しているからだと思います。人にもなかなか相談できない。誰かに話を聞いてもらう時間をもらうとすれば、それなりの言葉を用意しなきゃいけないのかなとか、そういうふうに思っちゃうんですよ。気軽にできない。考えすぎだとも思いますけど。相談できるようになること、これが課題ですね」 鞘師はずっと、自分自身と闘い続けている。そのストイックさが、あの演技につながるのか、と合点がいった。強そうで、弱い。かと思えば、行動は大胆。人に優しく自分に厳しい完璧主義者。鞘師の魅力は、そんな不思議なバランスから生まれているのかもしれない。