「クスリを一度に40錠飲んだ。ふわふわして不安が消えた」オーバードーズの恐怖 若者がハマる背景に、孤独感や対人関係
東京都出身の和氣さなえさん(35)は約10年前、夜になると寝られない日が続いた。交際相手の浮気を知ったためだ。彼からLINEの返信が来なくなり、不安に襲われた。病院で診察を受けると、睡眠導入剤や精神安定剤が処方された。当初はそれで眠れたが、耐性が付いたのかしばらくするとまた不眠になった。 足元には空になった市販薬のシートが…高揚した様子で笑い声を上げ
「少し多めに飲んでみようかな」 服用する量を増やし始め、気付いたら一度に飲む量は40錠。飲むと「ふわふわした気分と、強い自分になった感覚」になり、手放せなくなった。彼とは数年後に別れたが、オーバードーズはその後も続いた。 気分を高揚させるため、市販の薬や処方薬を過剰に摂取するオーバードーズ。近年、救急搬送される若い世代が増えている。東京消防庁管内での搬送人数は年間1000~1500人。その半数は15~29歳だ。深刻な依存症に陥り、副作用で体をむしばまれるため非常に危険。ただ、その背景を探ると不安や、寂しさ、葛藤といった「負の感情」が要因となっている。(共同通信=丹伊田杏花) 【この記事は記者が音声(共同通信Podcast)でも解説しています↓↓↓】 ▽次第にエスカレート オーバード-ズに陥った和氣さんは、病院をはしごするようになった。薬がないと不安。精神科や内科を毎月、約10カ所回った。手元には常に約200錠あった。大量に飲むとふわふわし、不安や寂しさを感じずに仕事に打ち込める。ところが、体から薬が抜けるとろれつが回らなくなり、仕事場で倒れることもあった。会社員や介護職を転々としたが、いずれも辞めざるを得なくなった。
その後はアルバイト生活になったが、保険証を持てなくなった。そこで同居していた両親に頼み、扶養に入った。再び保険証を使えるようになったが、その使用履歴から「病院のはしご」がばれた。両親にとがめられたものの、やめられない。病院に通い続け、漫画喫茶で大量に服用することを繰り返した。はたから見れば依存症だが、和氣さん自身はこう思っていたという。 「『交際相手との関係が良くなれば』『結婚さえできれば』と、今ある不安が解決すればすぐにやめられると信じていた」 根底にはこんな思いもあった。「違法なドラッグではなく医師から処方された薬だから、罪悪感があまりなかった。自分は周りと薬の使い方が少し違うだけだと…」 親に隠れて入手するため、保険証は使えない。薬代は全額自己負担。借金を重ねた結果、総額は約200万円に上った。 ▽「自分は依存症ではない」 数年後、20代後半になった和氣さんから、友人の多くは既に離れていた。気分が落ち込んだときにマンションから飛び降りたこともあった。