「クスリを一度に40錠飲んだ。ふわふわして不安が消えた」オーバードーズの恐怖 若者がハマる背景に、孤独感や対人関係
見ず知らずの女性たちと寝食を共にする共同生活。その上、スマートフォンも使えない。当初はすぐに帰ろうと思っていた和氣さんだったが、人と関わることが今までよりも楽しく思えてきたという。共同生活の中、入所者同士で衝突し、正直な意見を言い合っても離れることのない信頼し合える人間関係を体感したためだ。次第に、薬に頼らない生活に戻っていった。 2021年10月からは、フラワーガーデンの職員として働き始めた。自分の経験を、誰かのために生かすことができたらと考えたからだ。「正直、完治はないと思う。ただ今は、人に相談することができ、誰かが絶対にそばにいてくれる。薬ではない他の手段で自分の生活を満たすことができている」 ▽鍵を握るのは「人とのつながり」 フラワーガーデンでディレクター(施設長)として働く木村勇也さん(36)は、和氣さんのケースをこう分析する。 「家族との同居や正社員として働いているなど、社会との安定的な関わりが施設へのつながりやすさになる」
ワンネス財団にはアルコールや薬物依存に関する相談が年間約5千件寄せられる。相談の7割は男性で、その多くは家族、友人、職場の人といった周囲から。課題もある。 「依存症患者のほとんどは対人関係に悩みを抱えている。性産業で働いている女性のように、社会から孤立しがちな人へのアプローチが課題だ」 フラワーガーデンには現在、20~60代の約15人が入所。木村さんによると、どの依存症でも回復と克服のプロセスは同じだ。共同生活を通してまずは身体的・精神的に良好な状態を作り生活を立て直す。心理学を使った対人コミュニケーションのトレーニングを繰り返し、社会復帰を目指す。中でも大切にしていることは、孤独の解消と自己実現。 「人とのつながりを取り戻し、自分の強みに気づくことで心身が良好になる。そして、今まで依存していた薬やギャンブルなどの対象に頼る優先順位を低くすることができる」 ▽社会全体が「ゲートキーパ」ーに
オーバードーズの蔓延を防ぐには、薬剤師による「気付き」も大切という。日本薬剤師会常務理事の岩月進さん(68)は、病院やドラッグストアで直接薬を渡す立場にある薬剤師を「ゲートキーパー(門番)」と捉えている。 「薬物の過剰摂取での自殺を防ぐため、購入者にどこの具合が悪いのかを聞き、積極的に会話の時間を増やすことが大切だ」 ゲートキーパーになれるのは、薬剤師だけではないという。一人一人が自分の周りにいる人の変化に気付き、声かけをすることで、社会全体がゲートキーパーになれると語った。