知らないオジサンの「靴下」でした…コインランドリーの「忘れ物」持ち帰ったら犯罪?
●自分の物にしようとして持ち帰ったケース
――もし自分の物にしようとして持ち帰った場合どのような犯罪が成立しえますか? この問題は、忘れられた洗濯物に誰かの占有が認められるか、という点に関わると思われます。 なぜなら、窃盗罪の成立には、財物に対する他人の占有(所持)を侵害することが必要である(大判大正4年9月10日、最判昭和26年8月9日参照)ことから、店に忘れられた洗濯物に、持ち主やコインランドリー店主の占有が及んでいるのであれば、その洗濯物を自分の物にしようとして持ち帰る行為は、持ち主や店主の占有を侵害するので窃盗罪に該当する可能性があります。 一方、忘れられた洗濯物に誰の占有も及んでいないとすれば、遺失物等横領罪に該当する可能性があると考えられるからです。 この点、旅館のトイレに忘れられた財布について、旅館主の占有を認め、遺失物ではないとして窃盗罪を認めた判例(大判大正15年10月8日)があります。 また、乗客が列車内に遺留した物品の占有は当然に列車乗務員に帰属するものではないとして窃盗罪を認めなかった判例(大判大正15年11月2日)もあります。 一方、車掌が乗務中の貨物列車に積載されている荷物を不正に領得する行為は窃盗罪であるとした判例もあります(最判昭和23年7月27日)。 私の使っている判例検索ソフトでは、残念ながらコインランドリー内の忘れ物についての裁判例は見当たりませんでした。
●ポイントは「誰かの占有が及んでいるか」
――どう考えればいいでしょうか? 少し難しい話になりますが、最高裁は、刑法上の占有について次のように判示しています。 「刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であつて、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によつて一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。しかして、その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によつて決するの外はない」(最判昭和32年11月8日) この判断によれば、その物に関して、誰かの占有(刑法上の占有)が及んでいるかという問題は「(具体的な事情から)通常人であるなら誰であろうと、ある占有者の支配内にある(もしくは、ある占有者の支配内にはない)と納得するだろうという社会通念」にしたがって決めるほかないということなのです。 この判断から考えれば、(1)洗濯機内や乾燥機内に忘れられた衣類に関しては、持ち主は他の衣類は持ち帰っていますし、持ち主が近くにいることもありません。また、持ち主が忘れた衣類を監視しているわけでもありません。したがって特別な事情がない限り、このような衣類は少なくとも持ち主の刑法上の占有(支配力)は及んでいないと考えるのが普通だろうと考えます。 しかし、このような衣類に、コインランドリー店主の占有が及んでいるといえるのかについては、微妙です。 具体的な事情から、コインランドリー店主の占有が及んでいると社会通念上評価される状況であるなら、そのような衣類を見つけ、自分の物にしようとして持ち帰る行為は窃盗罪に該当する可能性もあるでしょう。一方、店主の占有が及んでいないと判断される状況であるのなら、そのような行為は遺失物等横領罪と評価されると思われます。 (2)忘れ物コーナーに置かれた洗濯物に関しては、洗濯店の利用規約等によっても異なる場合もあるでしょうが、多くの場合、コインランドリー店主がある時期まで保管して処分することが通常だと考えられます。 この忘れ物についての店側の対応に関して、店主に管理がされていると考えれば、その占有が及んでいると社会通念上評価できる場合も多いと考えられそうです。 仮にこのように評価されるのであれば、(2)のように忘れ物コーナーに置かれた衣類を勝手に持ち去る行為は、店主の占有を侵害するので、窃盗罪に該当すると評価されることになると考えます。 また、店主の占有が及んでいないと判断されるような特段の事情がある場合は、遺失物等横領罪に該当する可能性があると考えます。 典型的事例として(1)(2)と分けましたが、結局はいずれの事例でも、持ち主の占有・洗濯店主の占有が、忘れ物に及んでいると評価できるかという点に関わる問題という点では同じです。