なぜ「ヒラ社員でも年収2500万円」が可能なのか…三菱、三井とは根本的に違う伊藤忠商事の「儲けのカラクリ」
■激化する「優秀人材」の獲得競争 伊藤忠商事は、就職情報「学情」の人気企業ランキングで6年連続1位を獲得するなど、近年この手の就職人気ランキングでは常にトップクラスにあり、財閥系2社を上回る状況を堅持しています。しかし、このまま待遇面で水をあけられてしまえば形勢逆転もあり得ます。高度なコンサルティング営業を手掛ける優秀人材の確保で負ければ、今後の成長も危うくなるでしょう。 優秀人材の採用、確保のライバルは、大手商社だけではありません。先にも触れたように、今の大手商社はモノを売るだけのビジネスではなく、高度な知識と戦略的思考が要求される仕事です。その意味では、外資系コンサルティングファームも同様の人材を求める強力なライバルです。また現実に、若手の大手商社マンが一層の活躍の場とさらなる高待遇を求めて、コンサルティングファームに転職するのも、近年のトレンドになっており、それを食い止める施策として業界トップの給与水準は必要なのです。 業界3位にありながら上位2社と遜色のない給与体系を打ち出せる伊藤忠商事の強みは、大手商社にあって際立って従業員数が少なく、本業における1人当たり利益(営業利益)が大きいということが挙げられます。24年3月期でみると、三菱商事の営業利益(売上総利益-販管費)は6674億円、従業員数が5421人で、1人当たり営業利益は1億2300万円。三井物産は同5254億円、5419人で、同9600万円、対する伊藤忠商事は同7029億円、4098人で、1億7100万円と、この点で上位2社を大きく上回っているのです。 ■「商人として大事なのは、実践で鍛えられた勝負勘」 また働き方改革に早くから取り組み、約10年かけて長時間労働を良しとしない企業文化を育ててきたことも特筆されます。具体的には、午後8時以降の残業を原則禁止して朝型早出を推奨する「朝型勤務」を2013年に取り入れ、フレックスタイム制とあわせ総体での残業コストを削減したことはライバル2社にはない強みと言えるでしょう。この施策はコスト面だけでなく、就職人気にも大きなインパクトを与えていると考えられます。 資源価格の急騰で財閥系2社に業績面でやや水を空けられた伊藤忠商事でしたが、ここにきて資源価格も落ち着きを取り戻しました。傘下のコンビニ大手ファミリーマートやアパレルブランドでの収益力強化、あるいは同社の強みであるBtoCビジネス領域でのM&Aの積極化、さらにはDX事業分野の伸展などにより、一気に財閥系2社に追いつき追い越せと社員を鼓舞する意思のあらわれが、新給与体系の導入であると思うのです。 「商人として大事なのは、実践で鍛えられた勝負勘」であると公言する岡藤会長ですが(※)、2010年から15年にわたり経営トップの立場で指揮をとってきた会長が、自らの名前で社内に告知した新給与体系は、まさにここが勝負所であるとの宣言とも受け止められます。岡藤会長率いる“野武士集団”伊藤忠商事の対財閥系2社との今後のせめぎあいは、単に給与面だけではなく事業戦略を含め興味が尽きないところです。 参考文献 ※『週刊ダイヤモンド』「伊藤忠 三菱・三井超えの試練」2024年8月24日 ---------- 大関 暁夫(おおぜき・あけお) 企業アナリスト スタジオ02代表取締役。1959年東京生まれ。東北大学経済学部卒。1984年横浜銀行に入り企画部門、営業部門のほか、出向による新聞記者経験も含めプレス、マーケティング畑を歴任。支店長を務めた後、2006年に独立。金融機関、上場企業、ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、企業アナリストとして、メディア執筆やコメンテーターを務めている。 ----------
企業アナリスト 大関 暁夫