なぜ「ヒラ社員でも年収2500万円」が可能なのか…三菱、三井とは根本的に違う伊藤忠商事の「儲けのカラクリ」
■旧財閥グループを猛追する「野武士集団」 伊藤忠商事は三菱商事、三井物産とともに年間売り上げで10兆円を超える、「3大商社」の一角を占める存在です。三菱、三井がともに旧財閥系であるのに対して、伊藤忠は独立系です。その成り立ちの違いから、得意分野も異なっています。財閥系2社は古くから資源・素材分野に強く、財閥グループの結束を背景として業績を伸ばしてきたという歴史があります。 一方で伊藤忠商事は、江戸末期1858年の創業来、祖業の繊維を手始めに発展したBtoCビジネス中心での独立独歩路線を歩み、現在では生活関連消費材やDX分野を強みとしています。同社が最新の中期経営計画でも、「消費者からのニーズをくみ取ったマーケットインの発想による事業変革に取り組む」と宣言し、古くからの大手商社を象徴する「プロダクトアウト」文化を否定している点も、大きな特徴であるといえるでしょう。 このように旧財閥グループという大きなよりどころを持つ三菱商事、三井物産とは一線を画し、“野武士集団”ともいわれる伊藤忠商事からは、彼らに対する強い対抗心が伺えます。古くから2社に売上規模で後塵を拝しその背中を追いかけてきた経緯からも、並々ならぬライバル心があるのでしょう。そのような中で同社は、2021年3月期に純利益、株価、時価総額で2社を上回り、念願の三冠達成となりました。しかしながらコロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻の影響で資源価格が急騰。この分野に強い財閥系への追い風となって、翌年には再度逆転され引き離されるという憂き目にあっているのです。 ■資料から感じられる「強いライバル心」 具体的には、22年および23年3月期は純利益で三菱商事、三井物産に抜かれ業界3位に転落。24年3月期は三井物産、三菱商事が入れ替わったものの、伊藤忠商事は3位が指定席になりつつあるのです。冒頭の岡藤会長名で出された内部資料には、この流れを良しとしない経営陣が、対財閥系2社再逆転を意識したとみられる強い言葉が並んでいます。 「ここ数年の資源価格高騰による財閥系商社の好業績の結果、給与水準は大きく伸長したことで当社との給与差が目立つようになってきた。そこで、来期以降の処遇を大きく改善し財閥系商社に負けない水準の制度に改訂する」とし、具体的には、今年度の計画値(連結純利益8800億円)を達成した場合に総平均10%給与水準を上げるとしています。 さらに「三菱商事及び三井物産の計画値と同じ業績を達成した場合には、両社と同水準となる。(中略)この2年間の財閥系商社との格差を埋めることを優先した」と、2社名を出した上で、同じ業績を上げれば同じ水準の給与を保証するとまでしているのです。 ここまで財閥系2社に対してライバル心をむき出しにしているのは、彼らに対する積年の対抗意識があると思われますが、それとは別の動機として、人材採用、人材確保といった視点も透けて見えます。