1000年前のコインに8億円超の評価額。お宝の報奨金は発見者と土地所有者に分配
2019年1月、金属探知機を持った7人のグループが出かけていったのは水浸しの野原だった。目的は新しい機能を試すことだったが、イギリス南西部のバースに近いチュー・バレー地区で、なんと2584枚ものコインを発見。一行は激しい雷雨にもかかわらず、5時間ほどかけて宝の山を掘り起こしたという。発見者の1人、アダム・ステイプルズは発見当時の2019年、ダービー・テレグラフ紙にこう語っている。 「コインを掘り起こし尽くしたと思うまでその場を離れませんでした。終わったときにはずぶ濡れになっていました」 見つかった場所からチュー・バレーの財宝とも呼ばれるこのコインについて、大英博物館が10月22日にプレスリリースを発表した。その中で、このお宝は「1996年の財宝法制定以降に報告された中で、最も注目すべき発見の1つ」だとしている。イギリスの財宝法では、300年以上前の金銀の遺物は発見から14日以内に届けが必要で、宝物の取得を希望する博物館などの資金から発見者への報奨金(宝物の市場価値を上限とする)が認められている。 大量のコインを掘り出した7人は、大英博物館の「Portable Antiquities Scheme(小型の古代遺物に関するスキーム)」に則って、発見した地域の窓口に報告。見つかったお宝は、最後のアングロサクソン系イングランド王ハロルド2世と、11世紀初頭のノルマン・コンクエストでイングランドを征服したウィリアム1世(征服王)のコインだった。
10月22日、慈善団体のサウス・ウェスト・ヘリテージ・トラストが、ナショナル・ロッタリー・ヘリテージ・ファンドとアート・ファンドからの大規模な助成により、「前代未聞の」価値を持つ財宝の取得が決まったことを公表した。同トラストは、コインの取得と一般公開に関連する活動のため、ナショナル・ロッタリー・ヘリテージ・ファンドから約440万ポンド(約8億6000万円)、アート・ファンドから15万ポンド(約2900万円)の資金援助を受ける。大英博物館のプレスリリースによると、同トラストは、「サマセット博物館での関連プログラムと常設展示のために、後日さらなる助成金を申請できる」という。 前出のアダム・ステイプルズは、10月22日付の英ガーディアン紙でこう語っている。 「本当にすばらしい。信じられません。発見した時は驚きの連続でした。コインを1枚見つけただけでも嬉しかったのに、それから数分でまた数枚、10枚、50枚と出てきました。コインが見る見るうちに増えていくと、気持ちもどんどん高まっていくものです。まるで自分の手で歴史を掴んでいるようで、あの経験は間違いなく私の人生を変えました。そしてもちろん、価値の面でも目を見張るものがあります」 報奨金の半分は7人の発見者に、残りの半分はコインが見つかった土地の所有者に分配されるが、ガーディアン紙の記事では土地所有者の名前は明かされていない。古銭専門のオークションハウスを経営するステイプルズは、「私たち全員が、共有することに意義なく合意しました」と答えている。 ステイプルズは2019年のデイリー・テレグラフ紙の記事で、もしコインが公式に宝物と認められれば、その報奨金は彼とパートナーのリサ・グレースの生活を「一変させるだろう」と語っている。「それで自分たちの土地を買うことができます。そうすれば自由にお宝探しができるのです」 ハロルド2世とウィリアム1世のコインは、11月26日から大英博物館で展示された後、英国内を巡回し、最終的にはサマセット博物館で常設展示される。
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