「三億円事件」有力容疑者は“警察官の息子”とされるも…「やつはシロだ」と昭和の名刑事・平塚八兵衛が判断した根拠とは
Sはシロ
〈Sというのは、警視庁白バイ隊員の息子で素行が悪く、事件五日後に“ナゾの死”を遂げた。仲間うちで「給料を運ぶクルマを襲おう」などと計画していたという聞き込みもあって、事件直後にマル容(容疑者のこと)として浮かび上がった〉 〈車の運転もうまい。なかなか手ごたえのあるマル容なのだが、いかんせん父親が同じ警視庁の職員だ。刑事の足が前に進まない。いま一歩というところで及び腰になって踏み込めない。そのうちにSは自殺してしまった。自殺の原因は今もってナゾだが、これを洗い直せというのが私への特命だった〉 平塚氏はSと、女性一人を含む仲間、計22人の捜査を行ったという。前述した3つの事件当時、明確なアリバイがあったのか否か、そこが捜査の焦点となった。 〈私の捜査の結果、Sはシロだった。犯人が農協などに脅迫状や脅迫電話を入れていた間、Sは少年鑑別所の厄介になっており、とてもそのような行動がとれる状態ではなかったのだ。事件当日も、新宿の知人の部屋で遊んでいたことが裏づけられた。むろん複数犯なら共犯という説が考えられる。が、三億円の犯行経過は、どう見ても単独犯で、複数犯の可能性はまずない〉 平塚氏は、「三億円事件は単独犯」という説をとっていた。その根拠は「複数犯」とされた情報をより細かく調べると、目撃者の記憶違いや証言があいまいだったり、足跡などの物証があっても精査がされていなかったりしたことを自らの足と目で確認したからだった。 〈Sの死についても、当然、調べ上げた。だが、事情があって、私はその内容を今、細かく話すことができない。そのためにかえって一部には、Sへの疑惑を打ち消しきれずにいることも知っている。残念だが、やむを得ない。ただ、Sは“自殺”だった……〉 Sの自殺に関しては、数々の「ナゾ」が指摘されている。自殺当日の夜、父親と大喧嘩する声を近所の住民が聞いていた。父親が害獣退治のために購入していた青酸カリで自殺したが、包まれた新聞紙からは父親の指紋しか検出されなかったという。刑事が自宅を訪れた理由について両親がSを詰問するうちに三億円事件への関与を認めたことから、警察官という立場のある父親が自殺に追い込んだのではないか――この辺りの真相について、平塚氏も言及は避けている。