亡き父から継いだ事業で、兄が失敗→債権者が私の元に。「相続分のないことの証明書」は〈相続放棄〉にはならない? 【弁護士が解説】
相続放棄の「熟慮期間」とは
3.「相続分のないことの証明書」を作成した共同相続人について、相続放棄の申述を検討する (1) 相続放棄とは 相続放棄とは、相続人が相続開始による承継の効果を拒否する意思表示のことをいいます(遺産分割の実務118頁)。 相続人は家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすることで(民938)、初めから相続人とならなかったとみなされることから(民939)、被相続人の積極財産(現金や不動産等)も消極財産(負債等)も全て承継されないことになります。 したがって、被相続人の相続債務の承継を希望しない共同相続人は、家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。 (2) 熟慮期間とその起算点 相続放棄には期間制限があり、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をしなければなりません(民915・921二)。この期間を「熟慮期間」といいます。 熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、原則として「相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合」、つまり、(1)被相続人が死亡した事実と(2)自身が相続人であることの事実の両方を知った場合を意味します。 もっとも、相続人が、3か月以内に相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人においてそのように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、例外的に「熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時」が起算点となります(最判昭59・4・27民集38・6・698。以下「昭和59年判決」といいます。)。 昭和59年判決に関する学説には、(1)相続財産の一部の認識がある場合には熟慮期間の起算点の例外を認めない限定説と、(2)かかる認識があっても熟慮期間の起算点が例外的に後れることを認める非限定説があるとされており(潮見佳男編『新注釈民法(19)』500頁〔幡野弘樹〕(有斐閣、2019))、解釈論として検討すべき問題が残されています。
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