冬でも訪問できる鉄道廃線トンネル 大日影トンネル遊歩道と勝沼トンネルワインカーヴを歩く
大日影トンネルは過去に内部修復工事が施されるまで立入禁止だった。竣工から120年を超えるトンネルの天井部に安全対策として鋼製のネットを設置し、この鉄道遺産の歴史を広く知ってもらうことを目的として、甲州市が遊歩道として整備した。 個人的な欲を言えば、過去の大日影トンネルの橙色の照明が煉瓦トンネルの雰囲気にベストマッチだったので、やや明るすぎる感はある。ただ、1km以上の長いトンネルゆえに、照明施設を長持ちさせる上でこの選択はやむを得ないと推察する。 ■ SL時代を偲ばせるトンネル側壁にこびりついた煤 トンネルは直線で、入口からはるか先に出口の明かりが見える。トンネル内に残る当時の勾配標に「1000分の25」(1kmで25m上る)と示されているように勝沼側から上り勾配が続く。 待避所の数は、保線員の休憩も可能な大型のものが2カ所、鉄道電話を備えた中規模なものが5カ所、小規模が29カ所で、計36カ所もあり、このトンネルのスケールの大きさを物語る。 延々と続く側壁の煉瓦には電化前のSL(蒸気機関車)の煤がこびりついており、長いトンネルが連続するこの区間で、SLの乗務員や保線員は煤煙に巻かれるリスクと闘いながらの毎日であったことを思わせる。 また、大型の待避所内には休憩用のベンチも置かれている。トンネル出口から「ぶどう寺」として知られる大善寺を経て「ぶどう郷遊歩道」を歩いて駅に戻るコースもある。
大日影トンネルの特徴の一つが、途中、レールの下に排水用の水路(330m)を設けていることだ。笹子トンネルでも同様の水路があるように、地質が複雑な鉄道トンネル内で湧水への対策として見られる仕組みで、勾配を利用して排水する。現在も鉄分を多く含む水が流れている。また、勝沼側トンネル入口手前の傾斜面には煉瓦造りの水路も残り、こちらも当初から湧水へ様々な対策が講じられてきた遺構である。 長いトンネルを出ると、出口(深沢側)のポータルの造形は勝沼側と異なる。切石を主体にした造りで、壁柱は4本あり、勝沼側と形状は違えどもやはり威容が感じられる。明治期の設計者や職人たちが、長く歴史に残ることを意識して技術の粋を結集したポータルは、まさに腕の見せ所であった。 ■ 煉瓦トンネルの特性生かしたワインカーヴは満杯の人気 煉瓦造りの河川隧道のある深沢川を挟んで向かいにあるのが、旧深沢トンネルだ。大日影トンネルと同時期の明治35(1902)年に竣工した全長1100mの煉瓦トンネルは、現在「勝沼トンネルワインカーヴ」として活用され、地元ワイナリ―や個人契約者などの大切なワインを保管している。四季を通して温度(12~13℃程度)、湿度(45~65%程度)が安定しているトンネル内はワインの熟成に適している。契約希望者が多く現在は満杯とのことだ。 営業時間内ならば、事務所で記帳した上で、一部エリアのみ見学可能だが、取材時には許可を得てトンネルの奥まで入らせていただいた。