冬でも訪問できる鉄道廃線トンネル 大日影トンネル遊歩道と勝沼トンネルワインカーヴを歩く
■ 明治期の鉄道遺産が豊富な勝沼ぶどう郷駅周辺 路線の開業後、当地名産のぶどうの輸送の利便性を図るため、地元の要望を受けて大正2(1913)年にスイッチバック式の駅が設けられた。これが旧勝沼駅だ。ホーム跡に下りてみると現在の駅ホームとの高低差を肌で感じられる。平坦なホームを利用して長編成の貨物列車の荷物の積み下ろしが可能になり、当時農業が産業の中心だったこの地域においてぶどうの販路を飛躍的に拡大する効果をもたらした。 ホーム跡と勝沼ぶどう郷駅の間の道路にある菱山道路隧道も明治当時の貴重な土木産業遺産で、線路の下を通ることから通称「菱山ガード」と呼ばれる。この長さ29mのトンネルは勾配上にあり、2つのトンネルが連結された珍しい形状だ。 勾配の上部は明治36(1903)年の中央本線開通時のもので、下部は大正2年の勝沼駅開業に伴いスイッチバックの引き込み線を通過させるために増設された。上部は明治期につくられた煉瓦のところどころに隙間がありやや粗い印象だが、下部の煉瓦は整然と積層されており、製造技術の進歩も見て取れる。
■ 壁面や待避所を活用した解説掲示は“トンネル内博物館” 駅から甲府盆地を正面に見て線路沿いに左へ進むと、長らく中央本線で活躍していたEF64形電気機関車がきれいな姿で静態保存されている。旧国鉄が勾配線区間用に開発した機関車で、昭和から平成にかけて中央本線をはじめ日本の物流輸送に大きく貢献した。 その先の遊歩道の階段を上がると大日影トンネルの入口が見える。現在の下り線の新大日影第二トンネル(長さ1415m)の巨大なコンクリート製のポータル(入口)の隣に、古式蒼然とした煉瓦と切石造りの旧・大日影トンネルが並ぶ。タイミングが合えば特急列車が新トンネルから勢いよく走り出てくる瞬間が見られる。 高さ4.9m、幅3.5~3.7mのポータルの両サイドにはトンネルの威容を表すように壁柱(へきちゅう)が設けられている。切石が煉瓦を挟むように積み上げられ、意匠としても珍しい。アーチ環の迫石(せりいし)は斧の形に似ており、碓氷峠など同時代のトンネルでも見られる造形だ。 トンネルに入ってみると、当時のレールがそのままの姿で残されている。両脇の通路は運動靴でも歩行可能だ。 驚いたのは、内部の煉瓦の側壁や保線用の待避所のスペースを活用し、トンネル内に数多く残る鉄道標識や当時の時代背景についての解説が大小のパネルで掲示されていることだ。 鉄道の知識がなくてもわかりやすく、さながら“トンネル内博物館”の様相である。また、一定間隔ごとに白色のLED照明があるので掲示が読みやすく、暗闇に対する恐怖感を軽減する効果もある。