急きょ成立したTikTok禁止法、米中対立激化の契機か-中国の報復必至
シンガポールを拠点としているTikTok最高経営責任者(CEO)の周受資氏は大統領が署名した当日、TikTokに動画を投稿し、「間違いなく、これはあなたとあなたの声を禁止するものだ」と主張。言論や出版の自由などを保障する米国憲法修正第1条に基づく法廷闘争が恐らく不可避だと示唆した。
中国が米国の企業や業界に報復する可能性も高まった。たわいのないダンス動画の投稿先として人気が広がり始めたこのアプリを巡る対立は、世界の2大超大国間のライバル関係を一段とエスカレートさせる重要な契機となるかもしれない。
アプリをモニター・分析しているセンサータワーによると、TikTokの米国でのユーザー数は約1億7000万人。ユーザーが費やす時間はインスタグラムやスナップチャットよりもかなり長いという。
ダブルスタンダード
欧米で大規模な消費者向けインターネットサービスを運営する中国企業の存在は常に、居心地の悪いダブルスタンダードを示唆してきた。フェイスブックやグーグル、インスタグラム、シグナル、ワッツアップという米国のアプリは中国では許可されていない。こうした不均衡はトランプ政権時代に米中が互いの製品に関税をかけ始めるまでは総じて無視されていた。
関税合戦を引き金に激しい経済対立に火ぶたが切られ、米国は第5世代(5G)移動通信ネットワークにおける中国の通信機器使用を制限。その数年後には、軍事・人工知能(AI)システムに使われる可能性のある先端半導体の対中輸出を規制した。
中国では政府機関や国有企業が、iPhoneなどの外国製デバイスをオフィスに持ち込まないよう職員・社員に要請。米中間の緊張の高まりとともに、TikTokが象徴しているダブルスタンダードはさらに見過ごせないものになった。
下院「中国共産党に関する特別委員会」の民主党委員で、TikTok法案提出者の1人であるラジャ・クリシュナムルティ議員(イリノイ州)は、4月25日に放送されたブルームバーグテレビジョンの番組「バランス・オブ・パワー」で、中国はすでに米国の企業を標的にしていると述べた。「彼らはここでの自由な活動を望んでいるが、われわれの企業が中国で同じことをすることは許さない」と指摘した。