「気候変動対策をしなければ事業が終わる」オランダ金融企業の決心とは
顧客の行動変容を促す
では、どうやって融資や投資を使ってCO2を削減していくのか。第一に、新しく住宅を購入する際に、人々がCO2排出量の少ないグリーン住宅を選んでくれることが重要です。 そのような購買活動を促すために、INGは「グリーン住宅ローン」を提供しています。これは、エネルギー効率の高い住宅(オランダ国内の認証制度でAランクに格付けされた住宅)を購入する顧客に対して、ローンの利率を割引する制度です。 ローンを借りる側にとっては利率が低いので、グリーン住宅を選択するインセンティブとなります。INGにとっては、利率を割引するということは、直接的な儲けが減ることになりますが、他方で住宅が水没するリスク、つまりは貸倒れリスクが減ることにつながるため、ビジネス上の観点からも合理的な判断といえます。 しかし、すでに住宅を購入して買い換え意思のない顧客も多くいます。ずっと以前に購入した住宅だと、再生エネルギーへのアクセスがなかったり、断熱されておらずエネルギー効率が低かったり、さまざまな問題を抱えています。こうした顧客に対しては、屋根にソーラーパネルを設置したり、断熱材を追加したりするなどの設備投資を推奨しています。 ですが、多くの人々が新たにお金を借りてまで、CO2削減のための設備投資をしたいとは思いません。そこで、INGはフィンテック企業と提携し、住宅のエネルギー効率を診断するアプリを開発しました。 このアプリでは、顧客が自分の住所を入力するだけで住宅を3Dスキャンします。そして、エネルギー効率を向上させるために必要な設備投資の内容や費用、さらにその投資によって得られるコスト削減効果(電気代やガス代の節約額)を具体的に確認できるようになっています。 このアプリによって、住民からすると中期的に節約にもなる設備投資を特定することができ、また、INGはそれによって新たな融資機会を得る、そしてCO2削減にもつながるという、住民もINGも地球もウィン・ウィン・ウィンの関係を築くことができるのです。 不動産投資をおこなっている法人顧客向けにも、商業用不動産のポートフォリオ全体のエネルギー効率を分析するアプリを提供しています。これにより、不動産オーナーは自分の所有する建物のエネルギー効率を診断し、改善のための具体的な対策を把握することができ、必要に応じてグリーンローンを活用してその投資を進めることができます。 繰り返しますが、これらはINGのビジネスチャンスを大きく広げる取り組みでもあるのです。