エイガールズが地元和歌山でイベント その背景にある「産地の危機」と「その先の希望」
難しいのは後者だ。日本のアパレル市場が縮小する中で、トップライン(売り上げ)を上げるのはかなり難しい。だから利益を上げる、つまり商品単価を上げるしかない。そのための一つが海外の市場の開拓だ。「和歌山ニットプロジェクト」の狙いの一つに、当社のこれまで蓄積してきた輸出のノウハウの共有があった。かつては商社がこうした部分を担ってきてくれたが、ロットが小さくなれば彼らの旨味が少なくなり、営業活動から細かな貿易業務まで、自分たちでやらなければならない。こうした細かな業務まで含めた実務的なノウハウは、アイテムや企業規模によっても変わるから、同業者が一番よくわかる。エイガールズとしてはこうしたノウハウを全く隠すつもりはない。
「和歌山ニットプロジェクト」の参加企業の多くは生地メーカーで、最終消費者に完成品を売るという経験に乏しい企業ばかりだった。それでも、直売に加え、海外での実施にこだわったのは、単価を上げ、利益を上げ、海外で売るノウハウを、実務を通して共有したかったからだ。これだけ聞くと綺麗事のようにも聞こえるかもしれないが、それだけいま産地は危機的な状況にあることの裏返しだ。リアルにわれわれがモノ作りをできなくなるという危機感が常にある。
WWD:解決の処方箋は?
山下智広:一社だけではできることには限りがある。かつて世界トップレベルに合ったと言われる日本の繊維業は本当に危機的な状況にある。それこそ業界が一体になった上で、地方レベルでは行政と、全国レベルでは産地を越えて連携していく必要がある。それでも産地の疲弊や縮小を止めることはできないだろう。縮小のスピードを遅くしながら、新しい販路の開拓や高付加価値化を同時に進めるしかない。
山下装子:今回のイベントでは、初日に代官山蔦屋書店と同程度の売上が挙げられたのは驚きだった。参加した企業が実際に店頭に立った代官山蔦屋のイベントでは、大盛況な上に客単価8万円もあった。正直都心だからという気持ちもあったが、この和歌山でも同じような売上があったのは、驚くべき成果だった。
今後はこうしたイベントを年1回くらいのペースで実施したい。イベントの最終的な目的は産地のブランディングだ。和歌山にはニット以外にも、「ぶどう山椒」など知られていないが世界に誇れる物品がある。県内だけでなく県外のクリエイターと一緒にコラボレーションして、テキスタイル以外も含めた高感度なイベントを実施していきたい。