エイガールズが地元和歌山でイベント その背景にある「産地の危機」と「その先の希望」
なぜ今、和歌山でイベントを開催するのか。その狙いとは?その背景には「産地消滅」に対する強い危機感と、産地ブランディングや産業ツーリズムで乗り越えようという強い意志がある。プロジェクトを主導するエイガールズの山下智広社長と山下装子・副社長に聞いた。
世界で評価される「和歌山ニット発」のイベントで産地復興
WWD:なぜ地元和歌山でイベントを?
山下装子・副社長(以下、山下装子):22年10月に本社を建て替えた際、本社に隣接する形で別棟の「KASA」というイベントをスペースを作った。アパレル業界では和歌山が丸編産地だと知っている人はいても、業界の外に出れば、和歌山の人でも和歌山がニット産地だと知る人はほとんどいない。エイガールズや「MALU」はこの和歌山の丸編企業の優れた技術で成り立っている。「KASA」は、和歌山県内だけでなく、日本、あるいは世界に向けて発信する拠点として作った。
WWD:「和歌山ニット」は具体的に何が優れているのか?
山下装子:「MALU」は、カシミヤやシルクを100%使い、コメチゥが今では世界的にも希少な小寸のビンテージ丸胴機で編み上げている。自分で言うのもなんだが、信じられないほど肌触りがいいため、熱狂的なファンを抱えている。カシミヤの細く柔らかな糸は、生産性を追求している高速の最新機では、編み上げることが難しいし、高い糸だと失敗したときのダメージが大きい。細かい話になってしまうが、編み機は生産性を上げるために、多いときには数十本もの糸を一緒にセットして編み上げていくが、「MALU」は編み上げの失敗をできるだけミニマイズするために2本だけセットして編み上げている。1時間で1mやっと編み上げられるかどうかくらいのスピードだ。だが、それをできるのも古い機械だからだ。こうしたやり方に行き着くまでにも、失敗を重ねながら、機械を調整しながらようやく完成した。コメチゥには日本最古の100年前のベントレー社製のチェーン編み機も稼働しており、こんなことに付き合ってくれる工場は、希少な機械を含めて、世界中を探しても恐らくない。