平昌五輪が閉幕──冬の帝国覇権争い、漢字文化圏の勃興、小平選手の行動
羽生結弦選手が66年ぶりフィギュアスケートオリンピック男子で連覇を達成、スピードスケート日本女子として初めて金メダルを獲得した小平奈緒選手が感動を呼ぶなど、日本選手の活躍が光った平昌オリンピックは25日閉幕します。 文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、雪と氷の競技で争う冬季大会は夏のオリンピックよりも「風土的スポーツの祭典」の性格があるとみています。長くヨーロッパ勢が主導権を握ってきた冬季オリンピックですが、4年後、次の開催地もアジア・北京で開かれます。 今大会を「雪と氷の地政学」の視点で振り返ります。
もう一つの地政学と冬の帝国
白銀の世界にユニフォームの赤と青が躍動する。 ウィンタースポーツ特有の美しい映像に、一瞬ヨーロッパかと思い「いや、ここは韓国だ」と気づく。それほど冬季オリンピックは、ヨーロッパと結びついているのだ。 少し前にこのサイトで、中国の「一帯一路」構想から「陸と海と空の地政学」について書いたが、平昌オリンピックを見ていると、さまざまな種目に対するさまざまな国の取り組み方から、陸・海・空のメジャーな地政学とは異なった、もう一つの地政学すなわち「雪と氷の地政学」が見えてくる。 そして前回、ほとんどの「球技」のルールを決める「英米帝国」の力について書いたが、同様に、ヨーロッパの北部と高地には「雪と氷のゲーム」のルールを決める力があることを感じる。冬には「冬の帝国」が存在するのだ。
雪山はハプスブルク家とブルボン家の覇権争い
冬季オリンピック競技は、雪系と氷系に分かれるが、まず雪系である。 これはアルペン競技とノルディック競技に分かれ、アルペンとは「アルプスの」という意味で、滑降、回転、大回転を基本とするスキー競技の花形だ。 当然、ヨーロッパ・アルプスに接した国が強く、昔からオーストリアとフランスが覇権を争ってきた。これはヨーロッパ貴族最大のファミリーである、ハプスブルグ家とブルボン家の歴史的対立が背景にあると考えていい。アルプスは、この二つのファミリーの勢力が接する地域であり、ドイツ語圏とフランス語圏の文化が接する地域である。 またこの二つの国は、スキーの指導法を巡っても対立し、レジャーとしてのスキー産業としても対立してきた。オーストリアが勝てば、クナイスルやフィッシャーが売れ、フランスが勝てばロシニョールやサロモンが売れるという、冬季オリンピックの中でもっとも資本主義的な部分である。海と空を制した英米帝国の一方で、ヨーロッパの歴史的中核である二つ力が、高地における冬の帝国としての立場を争ってきたのだ。 日本は、最初にヨーロッパ・スキーを教えたレルヒ少佐や、技術指導したハンネス・シュナイダーの関係もあって、伝統的にオーストリア派で、多くのスキー学校が「スキースクール・アールベルク(オーストリア・スキーの伝統と権威を有する)」につながる指導法を取っていた。 僕が子供のころは、コルチナダンペッツォでアルペン三冠を制したトニー・ザイラーが主演する『黒い稲妻』などの映画が話題になった。そして大学生のころは、フランスにジャン・クロード・キリーというスーパースターが現れて、グルノーブル・オリンピックで三冠を制し『白い恋人たち』という映画と音楽が人気を集めた。そんなことから、スキーは僕の趣味の一つとなった。 今回、最後の回転で敗れ、マルセル・ヒルシャー(オーストリア)の三冠はならなかった。